買い物難民に役立つサービスも展開したい

 冒頭に登場した岡山の配達拠点・ツボヤンの梶田店長も、こう話す。

「ウチは6年前からデリバリーに特化した飲食店としてオープンし、その後、繁華街の一角にお店を構える形で営業してきました。今年のコロナで岡山の飲食店が大打撃を受ける中、何とか力になり、地域の飲食業を活気づけられないかと感じていたときに中村会長をテレビで拝見し、ぜひ一緒に組めないかと思い、今年5月にご連絡したんです。それで8月には本格稼働ですから、スピーディーに物事が運んで僕自身もビックリしましたね(笑)

 思い立ったら吉日で始めた配送代行事業は、いまや全国約390拠点に拡大した。空白地域である鳥取県や島根県などにも近いうちに展開していく方針だ。

 全国くまなくネットワークを構築し、いずれは独居老人の見守りや、買い物難民に役立つサービスも展開したい……。それが今、中村さんが思い描く大きな夢である。

飲食だけにとどまらないデリバリーの可能性を中村さんは追求する 撮影/渡邉智裕
飲食だけにとどまらないデリバリーの可能性を中村さんは追求する 撮影/渡邉智裕
【写真】初めてのビジネス『女子大生モーニングコール』を企業した時の中村さん(当時大学生)

 今年7月に就任した藤井英雄社長も、その思いを共有している。

'16年に出前館とLINEが資本提携をしたのですが、初めて会った中村会長の印象はビジネスに実直な方常に飲食店さんのほうを向いていて、“その企画じゃあ、お店のプラスになりませんよね”とキッパリ言いますね

 また、コロナを経て配送員が急増し、事故やトラブルの話題がよくニュースでも取り上げられますが、それを耳にするたび“日本全体のデリバリールールをしっかり作らないといけない”と自戒を込めて話しています。業界全体のことも考えて関わるすべての人が“ウイン・ウイン(取引する双方が利益を得られる)”状態になることを、中村会長は追い求めているんでしょう」(藤井社長)

「お客様と加盟店第一」の思いを藤井社長も共有 撮影/渡邉智裕
「お客様と加盟店第一」の思いを藤井社長も共有 撮影/渡邉智裕

 今後は会長として、一歩引いた立場から出前館の発展に貢献する中村さん。それと同時に大阪大学の非常勤講師、ビジネス勉強会の講師など幅広い活動にも携わっていく。

 前出の元上司・隈本さんは、「その実績と能力を活かし、ぜひ政治家になってほしい」と熱望するが、恩師の大塚先生や山本さんは「きっとやらないでしょうね」と笑う。

 彼女はまだ55歳。ここで歩みを止めるはずがない。生粋の実業家だけに、ここから新たなビジネスを立ち上げる可能性もおおいにありそうだ。

先のことはわかりませんけど、息子も成長して間もなく家庭を持ちますし、もう子育ては終わったので、自分の時間を楽しみます。実はここ2~3年はダイビングとスキーにはまっているんです」

 さわやかな笑顔を見せるスーパーウーマンの行く末が楽しみだ。

(取材・文/元川悦子)


もとかわ・えつこ ジャーナリスト。長野県松本市生まれ。サッカーをはじめスポーツを中心に経営者インタビュー、インフラ問題など執筆、精緻な取材に定評がある。『僕らがサッカーボーイズだった頃1〜4』(カンゼン)ほか著書多数