「そこにあるペットボトル取って!」「新しいノートパソコン買ったんだよね」など、多くの人が何げなく使っている“和製英語”。英語と名がついているが、それらは日本のどこかで生まれた日本育ちの単語たちだ。
「和製英語は、英語圏の人や英語を勉強している人々から『変な英語』と言われ、批判されることもあります。でも、和製英語は英語ではなく日本語であり“日本人のためのコミュニケーションツール”なんです。
和製英語が日本語だと理解してもらえれば、批判している人たちにも、その魅力が伝わると思う。ただ、和製英語は英語圏では基本的に通じません。
一方で、日本国内でその言葉が通じるコミュニティーであれば、自由に和製英語を使ったコミュニケーションがとれる。TPOに合わせた言葉の使い分けは、意識したほうがいいかもしれないね」
話題の「和製英語」の世界
そう力説するのは、福岡県宗像市で、和製英語や外来語の研究をしている北九州市立大学准教授のアン・クレシーニさん。23年前から日本に住みはじめ、今年11月に国籍を取得した日本人女性だ。彼女は「和製英語に出合って人生が変わった」と話す。
「実は、かつて私も和製英語をバカにしているアメリカ人のひとりでした。でも、あるとき友達が『パイプカット』という和製英語を教えてくれたの。それを聞いてなんて面白くてわかりやすい単語なんだろう、と感動したんです。
しかも、同じ意味を持つ『vasectomy』という英語は、れっきとした医療用語なのに、日本のパイプカットは“不倫してる男性が受ける手術”というイメージが強くて下ネタになっちゃう(笑)。言葉が持つ文化の違いにも混乱して、興味を持ちました」
その後も、日本での生活を通してさまざまな和製英語に触れてきたアンさん。そんな彼女の人生観を変えたのは、和製英語の研究を始めたころに出合った論文の一節だったという。
「その論文には『そもそも和製英語は英語ではなく、日本語だ』と書かれていたんです。それを読んだ瞬間に、目からウロコが落ちました。自分には日本語を批判する権利がないにもかかわらず、英語話者という立場から『私の母語をちゃんと使ってほしい』と、無意識のうちに和製英語を下に見ていたんです。それから私が和製英語に抱いていた偏見は一切なくなり、大好きになりました」
和製英語は英語由来の日本語であり、尊重されるべき言葉──。新たな視点を得て以来、アンさんは和製英語の世界にどっぷりハマっている。