芸能人が直接交渉する番組が増えた3つ目の理由は、手間と予算のカットができるから。
「ガチンコロケ」「スタッフによる仕込みなし」と聞けば、一見カッコイイが、現実的に「リサーチ、事前手配、ロケハンの手間と費用が省ける」ことが大きい。
実際、「予算が減って思うようにリサーチャーが使えず、ADの確保も難しいから、アポなし企画に落ち着いた」という話を何度か聞いたことがある。
さらに、店の都合に合わせた時間帯にアポイントを取ると、スケジュールが重なりやすい上に空き時間が発生しがちだが、「ガチンコロケならカメラを回しっぱなしにして撮り切れる。取れ高が確保できたらロケを終了できる」のもメリットの1つ。芸能人もスタッフも「頑張れば早く終わる」ためモチベーションを保ちやすいのだ。
どんなに配慮しても迷惑をかける
ただ、芸能人が直接撮影交渉する番組は、「ライブ感」「親近感」「手間と予算のカット」という3つのメリットを得られるだけでなく、デメリットもある。
真っ先に挙げられるデメリットは、ロケ先に急対応を求めるため、どんなに配慮しても店や来店客に迷惑をかけてしまうこと。「芸能人やスタッフの対応が少しでも悪い印象を与えると、すぐにSNSで批判されてしまう」というリスクも侮れない。
また、ガチンコロケの形では、本当にいい店を紹介することは難しい。事前にしっかりリサーチを行ったほうが確実にいい店を選び、より多くの情報を放送できるからだ。実際、『火曜サプライズ』の放送中、「その店行くの?」「もっといい店がたくさんあるのに」「2店だけ?グダグダした交渉のシーンはいらなかった」などの声がネット上に書き込まれることがある。
これらのデメリットを完全に解消することは難しいだけに、各番組のスタッフたちはメリットの最大化を優先させていくべきだろう。たとえば、「生放送でアポなしのガチンコロケをやる」というくらいの思い切った構成なら、今以上の結果につなげられるかもしれない。
「芸能人のリスクが大きすぎる」「人が集まってしまい危険だから無理」などと後ろ向きなことばかり言っていたら、ネットコンテンツの優先度が高い人々を振り向かせることはできないのではないか。
木村隆志(コラムニスト、テレビ解説者)
雑誌やウェブに月間20本強のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などに出演し、各番組のスタッフに情報提供も行っている。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもあり、主要番組・新番組、全国放送の連ドラはすべて視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。