一般的に、いじめのように事実関係の証明が困難な事柄について、第三者が介入するのは非常に難しいものです。ですから本来ならPTAは、学校にも保護者にも中立の立場で、事実関係を明らかにするべく協力するか、もしくは何もしない方がマシだったと思います。
しかし実際には、Rさんのケースのように学校側についてしまうPTAが珍しくありません。学校の主張と、ある保護者の主張が対立するとき、PTAが学校の説明だけを聞き鵜呑みにし、保護者(PTA会員であっても)を糾弾、排斥してしまうケースは、ときどき聞きます。
子どもが「指導死」
待ち受けていたバッシング
たとえば「指導死」でも、同様のことが起きています。「指導死」というのは、学校の先生の過度な「生徒指導」を機に、生徒が命を絶ってしまうものですが、なかにはこんな事例もありました。
「指導死」親の会・代表世話人である大貫隆志さんの次男は、中学生のとき、先生の厳しい「生徒指導」を受けた直後に命を絶ちました。当然ながら大貫さんは、学校で何があったのか事実関係を知りたいと思い、学校に働きかけます。しかし学校は、これもよくあることですが事実を隠蔽し、事実を明らかにしようとはしませんでした。
その後、事件がマスコミに取り上げられることが増えていたのですが、それが学校にとってはプレシャーだったのでしょう。PTAはそんな学校の擁護にまわり、PTA合同委員会の場で大貫さんたちを激しくバッシングしたのでした(大貫隆志編著『追い詰められ、死を選んだ七人の子どもたち。「指導死」』より)。
これはあまりにも、学校にとって都合がよすぎる状況でしょう。PTA役員さんたちは無意識のうちに、権力をもつ学校側についてしまうことがあるのですが、これでは学校が間違った判断をくだしたとき何の歯止めにもならないどころか、間違いを後押ししてしまいます。
前出のRさんは、こんなふうに振り返ります。
「PTAって、何のためにあるのかな? と、このときすごく思いました。会費を勝手に集められて、お手伝いの協力もして、なのに困ったときには助けてくれない。PTAは学校を敵にしたくないので、学校の対応が正しかろうが間違っていようが関係なく、学校と意見を合わせてしまうんです」
なお、筆者の友人はPTA役員をやっているとき、Rさんとほぼ同じ状況の保護者から相談を受け、何度も話を聞き、転校しないで済むようにその保護者を支えていました。彼女は別に、PTA役員だからそれをしていたわけではないのですが、たまたまそんなことをできる保護者がPTA役員のなかにいたことは、とても幸いだったと思います。
PTA役員をする人は、学校がもつ権力というものに、意識的であってほしいものです。
大塚玲子(おおつか・れいこ)
「いろんな家族の形」や「PTA」などの保護者組織を多く取材・執筆。出版社、編集プロダクションを経て、現在はノンフィクションライターとして活動。そのほか、講演、TV・ラジオ等メディア出演も。多様な家族の形を見つめる著書『ルポ 定形外家族 わたしの家は「ふつう」じゃない』(SB新書)、『PTAをけっこうラクにたのしくする本』『オトナ婚です、わたしたち』(ともに太郎次郎社エディタス)など多数出版。定形外かぞく(家族のダイバーシティ)代表。