ジェンダーレスのペンネームも多くなってきた
女性の漫画家が男性のペンネームを名乗ることは時代背景が大きく影響していたが、現代ではまた新たな変化があるという。
「ジェンダーレスの世の中になり、男と女の二元論自体が時代遅れという傾向にはなっています。そもそも、男性か女性かよくわからないペンネームも多くなってきました。『クール教信者』『天原』『Tiv』『知るかばかうどん』などなど、枚挙に暇がありません。この傾向は今後、ますます強まっていくと思われます。インパクトが強いペンネーム、覚えやすいペンネーム、そして何よりSNSで検索されやすいペンネームが好まれていくでしょう」
SNSの隆盛により時代は逆転し、男性向け作品を描く“顔出しの”女性漫画家はむしろ人気となることが多い。
「SNSは人間を透化させる機能がありますから、さらけ出している部分が多ければ多いほど、好感度は上がっていきます。美人の女性漫画家さんに至っては、それだけでSNSのフォロワー数も増加しますし、複雑な世の中になってきました。
さらに深堀りすると、“少女漫画を描いている美人の漫画家さん”については、顔出しすると女性読者のフォロワーは減るという現象があり、実際に話を聞きました。こちらはとても複雑な女性心理なのですが、“少女漫画を描いている漫画家さんは、どこかでちょっとブスであってほしい。憧れの心理で描いてほしい”という少し歪んだ欲望の作用だと、彼女は分析していました。
読者は漫画家さんをリスペクトしている一方で、“自分よりも少し不幸であってほしい”という黒い欲望もあります。これは漫画の主人公への感想にも言えることで、“この主人公が好き”“憧れる”という感情と同時に“この主人公は自分よりもレベルが低いから、自分はまだ大丈夫”という感情もあるそうです。
このような人間らしい複雑な感情が“男性ペンネームを使う女性漫画家への、読者のさまざまな見方”に帰結するのだと思いますね」
女性だから、男性だからといったうがった視点を持っていては、面白い作品を見逃してしまう。作者の性別がどうあろうが、『鬼滅』が面白いことには変わらないのだ。
太田ぐいや
漫画原作者、脚本家、構成作家。原作や原案を手掛ける現在連載中の漫画は『私には5人の毒親がいる』(漫画・樹生ナト/秋田書店)、『ばくおん!! 台湾編』(漫画・おりもとみまな/秋田書店)、『そば屋幻庵』(漫画・かどたひろし/リイド社)、『余命一年のAV女優』(漫画・玉越博幸/小学館)など。