おいしさに驚きや意外性をプラス
藤崎さんの手腕が発揮されたのは、これだけではない。ファッションブランド「FRAPBOIS」「BEAMS」とのコラボ商品、六本木での期間限定イベント開催など斬新な企画を次々と打ち出し、話題をさらった。
コロナ禍ではスタッフの安全を考えて、ロゴ入り布マスクを用意。マスク不足が深刻だったため社会貢献の一環として来店客に販売したところ、SNSで大反響を呼び売り切れが続出した。「ドムドムを取り巻くすべての人に寄り添って共存したい」という、藤崎さんの切なる願いが伝わった形だ。
「ドムドムはバーガー屋ですから、おいしいのは当たり前。それにプラスして、驚きや意外性があったほうが楽しいですよね。お客さんに笑顔になって帰っていただけたら私はいちばんうれしいんです。
社長になってからの2年間で何よりも強く感じたのは、ドムドムがものすごく愛されているな、ということ。コロナで不安な時代だからこそ、みなさんと支え合うことが大切なんです。これからも安心安全を第一に、独自性を大事にして、新たなチャレンジをしていければいいですね」
やむにやまれぬ事情により、専業主婦だった藤崎さんは波乱の日々を経て、いまやドムドムを率いる注目の女性リーダーとなった。こうして母が世間で評価されるのを、現在は墨田区議となったひとり息子も喜んでいる。
「家にいる母は以前と変わりませんが、多くの人に愛されているドムドムでイキイキと働く様子を見るとうれしいですね。僕も人生の指針を示してくれた父のようになりたいと努力しています。そうやって、お互いに頑張っていければいちばんいい。母にはもっと好きなことをやってほしいと思います」(剛暉さん)
今年生まれた孫と息子夫婦を招き、得意な料理を振る舞いながら他愛ない話をする。それが、藤崎さんがいちばんリラックスできる時間。温かい家族に支えられながら、この先も自分らしいスタイルで、彼女はドムドムを力強くリードしていくに違いない。
(取材・文/元川悦子)
ジャーナリスト。長野県松本市生まれ。サッカーを中心に、スポーツ、経営者インタビューなどを執筆、精緻な取材に定評がある。『僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン)ほか著書多数