親に叱られるのが怖かった
「まさか、娘があんなことをしたなんて……。今でも信じられません」
美奈子(仮名・40代)の娘・奈々(仮名・16歳)は、自宅近くのスーパーのトイレで出産し、遺体をゴミ箱に遺棄した。事件は、加害者は匿名で、大きく報道されることはなかったが、美奈子が生活する地域では大騒ぎとなった。
「鬼畜! 出ていけ!」
事件後すぐに、美奈子の家には嫌がらせの電話が来るようになった。奈々は犯行動機として、「親にバレるのが怖かった」と供述したという。
それ以来、美奈子と夫は「虐待親」と呼ばれ、周囲から壮絶なバッシングを受けることになった。奈々には兄がおり、地元の進学校に通っていた。奈々が、兄から性的虐待を受けており、子どもの父親は兄だという噂が流れていた。兄は学校で「レイプ犯」などと罵られ、上履きを隠されたり、同級生から無視をされるようになった。
「私たち虐待なんてしていません……」
家族には、奈々がこのような事件を起こす心当たりはなかったのだ。
奈々は、中学時代からいじめを受けており高校に入っても友達がいなかった。クラスメートから無視をされていたが、暴力や嫌がらせを受けているわけではないという理由で、先生に相談しても対応してはもらえなかった。親に相談したこともあったが、「友達を作るより勉強が大事」と一蹴されてしまう始末。
奈々は、SNSの世界にのめり込み、現実の世界の寂しさを紛らわすようになっていく。奈々の悩みをよく聞いてくれる男性と親しくなり、現実でも会うようになった。会うようになると、嫌われるのが怖くて、肉体関係を拒むことができなかった。生理が遅れていることを打ち明けると、彼とは一切連絡が取れなくなってしまった。
特に異性との交際に厳しかった母親の美奈子。奈々は、恋愛とは関係なく男の子の友達も欲しかったが、家に電話が来ても取りついてもらえず、高校を卒業するまで交際は厳禁だった。妊娠した事実など、打ち明けられるはずがない。奈々は、ひとりで出産し子どもを処分する覚悟を決めていたという。体形の変化は服装で必死にごまかしていた。
「遺体を発見した人は、あまりのショックで寝込んだ」
「あのスーパーの近くで事故が起きたのは、死んだ子どもの霊が原因」
事件が周囲に与えた衝撃は大きく、一家のもとには言われなき誹謗中傷が続き、転居を余儀なくされた。