大河ドラマも出演、飛躍したのは、作家・山崎豊子のお気に入りになったあたりか。豊子の寵愛はそれまで上川隆也に注がれていたが、晴れて唐沢も仲間入り。『白い巨塔』(2003年・フジ)、『不毛地帯』(2009年・フジ)と出演し、社会派の大作に出る俳優として確固たる地位を築き上げた。これが唐沢の「昭和の大作御用達期」である。「豊子とフジと新潮社の寵愛&蜜月三つ巴期」と言ってもいい。
もちろんテレビドラマだけでなく、3部作の大作映画『本格科学冒険映画 20世紀少年』でも主演をつとめ、意外な歌唱力も見せつけた。とにかく「大作」に出演する印象が強い。これはスターの歩くべき道であり、王道でもある。
作品になんだか恵まれない低迷期に突入
しかし、時代は変わる。2008年のリーマンショック以降、世界的不況へ突入。2010年代のエンターテインメントの世界はスケールが縮小し、大作志向はインディーズ志向へと変わった気もする。大作が似合う唐沢のイメージが「使いづらい・依頼しにくい」へと変わったのかと思うほど、一時期、唐沢をテレビドラマで見なくなった(この時期WOWOWドラマの撮影があったからと推測はできるが)。
あの頃、個人的に強く覚えているのは『ギルティ 悪魔と契約した女』(2010年・フジ)の唐沢である。主役の菅野美穂は殺人事件の犯人に仕立て上げられ、服役した冤罪被害者だ。虚偽の証言で自分を有罪に陥れた人間たちに次々と復讐していく話だったが、唐沢は菅野につきまとうジャーナリストの役。つまり脇役である。
菅野をおとしめる記事を書いたものの、冤罪と知って菅野の味方になるのだが、なぜか落ちぶれてホームレスのテイ。脂ぎったワンレングスの髪型に黄色い歯、ちょいちょいダジャレをかまし、なれなれしく呼びかけるなど徹底して「変なおじさん」に。あの正義や野心に燃える凛とした姿、一点の曇りなき瞳はどこへ? それでもギルティの唐沢は「王道からあえて外れる喜び」がダダ漏れで、興味深かった。
そこからの唐沢はどうにも振るわない時期へ。いや、彼が振るわないのではなく、作品に恵まれない。あえて書いておこう、低迷期3部作を。