17歳で30歳の役を演じて
自主映画がきっかけで演技の楽しさに目覚め、高校2年生のときに地元にある劇団『沼津演劇研究所』の門を叩く。当時の様子を、代表の中谷昭司さんはこう振り返る。
「“沼津 劇団”で検索して最初に出てきたのがうちだったらしくて(笑)。“演技の基礎を学びたいので、芝居をやらせてください”と、私の自宅に電話がかかってきたんです」
磯村が入団した時期には公演予定がなかったというが、せっかく入団した磯村のために公演を行うことに。
「稽古場はトタン屋根で、雨が降るとセリフも聞き取れないような劣悪な環境だったのですが、一生懸命、稽古に取り組んでいましたね」(劇団員の武田典子さん)
最初は劇団の活動に理解を示していなかった両親も、磯村の熱心さを見て応援するようになったという。
「稽古場は磯村くんの自宅から車で20分ほどの距離にあったので、毎週火曜と金曜の稽古は、学校終わりにご両親が車で稽古場まで送迎していましたね。うちの劇団メンバーは、みんな50代~70代なので、17歳の彼は孫のようで可愛らしかった。年齢差にもまったく臆することなく、演技に挑んでいました」(武田さん)
演出家の杉山義則さんも、
「とにかく素直で飲み込みが早かった」
と絶賛。初舞台となったチェーホフの『プロポーズ』では、30歳の男性を演じ、こんな体当たりシーンも。
「当時55歳だった私が恋人役を演じたのですが、稽古でも本番でも堂々とキスシーンを演じてくれました。キスシーンは寸止めとはいえ、初めてのお芝居とは思えないほどの度胸でしたね。2日目の公演では、私がイスに座れず後ろに転んでしまうアクシデントがあったんですが、磯村くんがスッと私に手を差しのべてくれて。お客さんも台本どおりだと思うぐらい、自然な演技でした」(武田さん)
磯村の人気ぶりも目の当たりにしたようで、
「200人ほどが入るホールだったのですが、最前列から数列は彼目的の女子高生でびっしり埋まっていて驚きました」(武田さん)