感染リスク回避よりも視聴率

 人間は幼少期に自転車に乗ることを覚え、その楽しさを感じる人が多いだろう。しかし、プリンちゃんはチンパンジーであって人間ではない。

「服を着せられたプリンちゃんは、人間の子どものようにも見えるので、まるで父親が娘に自転車の乗り方を教えているような、ほほ笑ましいシーンに見えたという視聴者もいたようです。しかし、プリンちゃんは人間のような振る舞いをするように仕向けられたチンパンジーです。人間の子どもが自転車に乗れるようになりたいと思って練習しているのとは異なります。

 “自転車に乗れるようになれば、楽しむことができるようになるはずだ”と考える人もいるかもしれません。でも、プリンちゃんは自転車で自由に好きな所に行くことはできないので、乗れるようになったとしても楽しむことはできないと思います。

 もし仮に自転車を楽しめると考えるのであれば、東京から芸能人が教えに来るのを待たずに、もっと早くに遊び道具として自転車を与えることもできたはずです」(松阪さん)

 東京都では新型コロナウイルスの感染者が依然として増え続けており、『GoTo』の自粛も叫ばれている。コロナに関しては動物も例外ではなく、全国の動物園関係者は最大限の注意を払っているという。

「動物園では人から動物への感染を防ぐために、さまざまな対策を行っています。たとえば、予約制による入園者数の制限、来園者と動物の間の距離の確保、動物との触れ合いコーナーや餌やりコーナーの中止といったものです。飼育員や獣医師の方たちも、直接的な接触はできるだけ避け、接触が必要な場合には手袋の装着や手指の消毒を徹底しているようです。また、来園者と飼育員の間での感染防止のため、飼育員によるガイドツアーなどを中止している園もあります。ほかの地域への出張から戻った際などには、検疫期間として2週間は動物に近付かないようにしているという話も聞きました。

 類人猿に対しては、とくに慎重な対応がおこなわれていると思います。ヒトに近いため、ヒトへの感染の危険性が高い上に、チンパンジーもゴリラもオランウータンも絶滅危惧種だからです。

 プリンちゃんのいる阿蘇カドリー・ドミニオンでおこなわれた撮影ロケは、こういった全国の動物園の対応とはまったく異なっており、疑問を感じざるを得ませんでした。感染多発地域である東京から訪れた芸能人が、チンパンジーを抱いたり、くすぐったり、マスクを触らせたり、マスク越しにキスしたりしていたからです。

 わざわざ感染リスクの高い方法を取ったのは、調教師ではなく“志村さんの遺志を受け継いだ芸能人”が課題に挑むシーンによって視聴者の感動を煽り、視聴率につなげることに番組制作者がこだわったからではないかと思います。絶滅危惧種への感染リスクを回避することよりも視聴率を優先したのだとしたら、重大な問題でしょう。動物園にも撮影スタッフにも、世界的に保護されている希少な動物を預かっているという自覚が欠けているように思います」(松阪さん)

 対人間、対動物、どちらとも円滑で健全なコミュニケーションが取れた番組になることを、志村さんも望んでいるはずだけど……。