台詞の抑揚や、手足の動き、表情、目線が、とにかく細かく動き続けるのである。『この恋あたためますか』でいえば、仲野太賀含む他の俳優の演技が、携帯電話でいう「4G」で動いているとすると、森七菜とその周りだけ「5G」で動いているように感じるのだ。
森七菜を見たいがために『この恋あたためますか』を見るわけだが、正直に白状すれば、ストーリーを追っているというよりは、彼女の感情・表情の解像度が高い「5G」の動きを追う感覚で見ているのだ。
言い換えると、「女子」を超えて、「少女」「少年」すら超えて、「小動物」を見ている感覚である。例えば、口を細かく動かして木の実を食べるリスを愛(め)でるような。ちなみに『この恋あたためますか』の第3話には、浅羽拓実(中村倫也)が井上樹木(森七菜)を「小動物」と評したセリフがあった。
20代の斉藤由貴を彷彿とさせる女優
と、ここまで書いてきて、特に「情報量の多い」演技力という点で、現在の森七菜にとてもよく似た女優が、かつていたことに気付いたのだ。
80年代後半から90年代初頭にかけて、20代の頃の斉藤由貴である。
TBSの傑作ドラマ『はいすくーる落書』(1989年)、『はいすくーる落書2』(1990年)の頃の斉藤由貴。ブルーハーツの主題歌(こちらも傑作)にのって、テンションの高いせりふ回しで、手足をばたばた動かしながら、喜怒哀楽にあふれた表情で、泳いだような視線をキョロキョロ動かしていた当時の斉藤は、今の森七菜にそっくりである。
また、コメディエンヌとしての素養を併せ持っている感じや、音楽活動にも手を広げる点でも、斉藤由貴と森七菜は共通する。違いがあるとすれば、斉藤由貴が「女子性」ではなく、言葉本来の意味での「女性性」を強く発していたことか。
そんな当時の斉藤由貴に魅了された世代が、今、森七菜のファンとなり、斉藤に似た「情報量の多い」演技を、目を細めて見つめている。
やや下衆な言い方で恐縮だが、「魔性の女」的な形容で斉藤由貴は語られがちだった。同世代、ないしは少し上の世代を強く引きつけるのが「魔性の女」ならば、森七菜は、私のようなはるか上の年代を引きつける、言わば「魔性の女子」という新ジャンルを切り開いているのかもしれない。
スージー鈴木(すーじー すずき)評論家
音楽評論家・野球評論家。歌謡曲からテレビドラマ、映画や野球など数多くのコンテンツをカバーする。著書に『イントロの法則80’s』(文藝春秋)、『サザンオールスターズ1978-1985』(新潮新書)、『1984年の歌謡曲』(イースト・プレス)、『1979年の歌謡曲』『【F】を3本の弦で弾くギター超カンタン奏法』(ともに彩流社)。連載は『週刊ベースボール』「水道橋博士のメルマ旬報」「Re:minder」、東京スポーツなど。