ステイホームで逃げ場がなくなった

 警察庁によると、今年10月の自殺者数は2158人。これは新型コロナの年間死者数2382人(12月8日時点)に、ほぼ匹敵する。

 とりわけ、女性の自殺者が急増している。8月には669人、前年同月に比べて1・7倍に増えたが、さらに10月には851人に膨れ上がり、前年同月比で1・8倍の増となった。

 なかでも目立つのが、10代~20代の女性による自殺だ。特に8月は、前年同月比で女子中学生は4倍増、女子高生は7倍増、9月は女子大生が1・5倍増。コロナ禍の今、なぜ若い女性の自殺が増えているのだろうか?

 若者や女性の自殺リスクについて分析する『中曽根平和研究所』の高橋義明・主任研究員は「自殺未遂や“死にたい”と言っている人を分析すると、コロナ禍以前から自殺のリスクが高まっていました」と話す。

 高橋研究員がリーダーとして参加した日本財団の2016年調査では、20歳以上の男女の4人に1人が「死にたい」と考え、若年層ほど女性の比率が高かった。1年以内の自殺未遂経験者の推計は53万5000人。このうち女性の49%、男性の37%は、自殺未遂をした回数を「4回以上」と回答している。

「日本の年間自殺者のピークは'03年で約3万2000人。そこから減少傾向にありますが、男性が減ったのに対し、女性は横ばい状態でした。女性の自殺は数としては目立っていなかったものの、もとからリスクがあり、それがコロナ禍で表面に現れるようになったのです」(高橋研究員)

 若年層の自殺の理由として、著名人の自殺報道が続いたことも指摘される。ただ、'16年調査では、自殺未遂の原因で多いのは家庭問題や健康問題。'19年調査では、自殺念慮(死にたい気持ち)の原因として4人に1人が「いじめ」と回答している。

「著名人が自殺をすると若年層ほど影響があると言われていますが、そのベースには自殺念慮があります。特に、いじめ被害の経験や家族内の虐待がリスクになります調査では、家族問題を理由に未遂をしている人が多かったのですが、コロナ禍を考えると、ステイホームによって家族と一緒にいる時間が増え、逃げ場がなくなった可能性があります

外出自粛で家族からの逃げ場を失った女性たちは少なくない
外出自粛で家族からの逃げ場を失った女性たちは少なくない
【写真】インタビューで心の内を話してくれた「自殺未遂をした彼女たち」

 10代、20代の女性を対象にSNS相談を行っているNPO法人『BONDプロジェクト』の代表・橘ジュンさんは、「相談には“死にたい”“消えたい”という内容が以前から多い。ただ、相談をしてきた女の子たちが自殺したという情報にはなかなか接しません。仮に女の子が亡くなったとすれば(自分たちに)何ができたのか? という気持ちになります」と話す。

 同団体では6月、コロナ禍の影響について、会員登録している9500人を対象にアンケートを行っている。回答した950人のうち、家族やうちのことで困ったことがあったは59%さらに内訳を見ると、イライラをぶつけられるが32%で最多このほか家族の暴言を吐かれるが22%、叩く、蹴る、引っ張られる、物を投げつけられるが8%で続いた