難しい親離れと子離れ

 しかし、その理由が最近わかった気がした。『週刊女性』の直撃に、淳子がこう答えていたのだ。

本当に息子が、あんなことをしたと思われているのですか? 相手は被害届を出してすぐに“いくら出すんだ”と示談金を要求してくるなど、非常識なところがありました。それで警察は彼らの言い分がおかしいと判断して、不起訴処分にしたんです」

 どうやらあの事件について、納得できないものがあるようだ。そもそも、彼女はかなり気が強く、劇団での暴君ぶりが報じられたこともある。そんな母親に関して、裕太も「相談すると全部、あの人の主観で答えちゃう(略)母親と今後のことを話すのは、イヤなんです」と、自立志向をにおわせたりした。

 とはいえ、裕太が親離れするのは難しいだろう。淳子はバツ2で、2度目の結婚で長女が生まれ、次の事実婚で裕太を授かった。シングルマザーとして育てたやんちゃだった息子が自分と同じ道で成功しつつあったわけで、可愛くてしかたないのだ。

 こういう母親はわが子を「一心同体」と考えがちである。「刺し違え」発言はまさにその象徴で、生きるも死ぬも一緒という思いが伝わってくる。

 だとしたら、万が一、裕太がもっと本格的なやらかしをしてしまったときのことが心配になるが──。さすがに、刺し違えることはないだろう。

 一心同体というのは、わが子も自分の一部だということだからだ。自分のことはそんなに悪く思いたくないから、自然と甘くもなる。究極の親バカとは、そういうものなのである。

PROFILE●宝泉 薫(ほうせん・かおる)●作家・芸能評論家。テレビ、映画、ダイエットなどをテーマに執筆。近著に『平成の死』(ベストセラーズ)、『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)、『あのアイドルがなぜヌードに』(文藝春秋)などがある。