DNA運用で法整備が必要
これまでに照合した指紋は約5000万件。国際刑事機構(ICPO)を通じて海外の捜査機関にも協力を求めたが、合致するものは見つかっていない。こうした経緯を踏まえて土田さんは力説する。
「犯人に直結するもうひとつの証拠、それがDNAです。指紋ではルーツの地域まで絞れませんが、DNAは可能です」
現場に残された犯人のDNA型鑑定の結果、父系が東アジア系民族、母系が欧州系(地中海)民族であることがわかっており、警視庁は、「アジア系を含む日本国外の人」および「ハーフの日本人」の可能性も視野に捜査を進めている。
例えば中国や米国では、技術の進歩によりここからさらに詳しいデータが引き出せる。それは似顔絵だ。すでに米国では、DNAによって作成された似顔絵を公開し、未解決事件の犯人が検挙されるケースが相次いでおり、日本の捜査でも適用されれば、検挙率が高まる可能性がある。
ところが警察庁の見解としては、DNAは「究極の個人情報」という人権上の観点から、その遺伝子にかかわる部分は活用しない方針だ。これが似顔絵作成の障壁になっているのだが、土田さんはこう反論する。
「かけがえのない命を奪われた被害者の人権と比較した場合、加害者の個人情報を保護するのは不均衡かつ理不尽だと考える」
日本には現在、DNA型データベースとその運用に関する法律がない。すでに立法化されている欧州に遅れを取っているとして、土田さんは法整備によるDNA捜査の徹底が必要だと強調する。
「犯人の父系と母系に関するデータをチラシに掲載して配ったところ、警察からやめてくれと言われた。だけど、すでに新聞でも報道されているし、ネットで調べてもすぐにわかる。事実と異なるなら使わないが、警察から反論もない。われわれは犯人特定につながる情報を集めるためにやっている。警察もDNA捜査にもっと踏む込むべきだ。可能なはずなのになぜやらないのか」
土田さんに思いを託した良行さんの死後は、良行さんの妻・節子さん(89)が街頭に立ってビラを配り、メディアへの取材対応をするなどで表に立っている。来年、90歳を迎えるのをふまえ、土田さんも懸念を募らせる。
「節子さんの動きそのものは元気だが、年相応のゆるやかさが感じられる。事件の風化を気にする発言も多くなり、このまま未解決の流れに至ることに不安を覚えているように見えます」
埼玉県でひとり暮らしをしている節子さんは、犯人逮捕を今か今かと待ち望む日々。事態は一刻を争っている。