子どもを守ってくれるはずの「学校」での出来事をきっかけに、命を絶つ子どもたちがいる。子どもが“指導死”したあと、遺族を非難したのは他の生徒の保護者たちだったーー。なぜ、保護者たちは学校をかばい、被害者側を非難することになったのか。(取材・文/ノンフィクションライター・大塚玲子)
学校で起きるいじめや、教員による「指導」を機に、命を絶つ子どもたちがいます。多くの対策がとられてきましたが、残念ながらなかなか根絶せず、私たちはまだときどき、悲しいニュースを耳にします。
驚く人もいるでしょうが、このような事件が起きたとき、他の保護者や地域住民が学校をかばい、遺族である保護者を非難することがあります。似たところで先日、いじめを受けた子どもの保護者が、他の保護者(PTA役員)から転校を促された話を耳にしましたが、こういったことは昔からあるようです。
「被害者側が周囲からバッシングを受けるのは、決して珍しいことではありません」
そう話すのは、「指導死親の会」共同代表の大貫隆志さん(一般社団法人「ここから未来」代表)です。
大貫さんは20年ほど前、学校での「指導」を機に、当時中学2年生だった息子を失いました。以来、同じようなことが再び起きないよう「指導死」という言葉を作って世に広め活動してきました。2013年には『指導死 ~追い詰められ、死を選んだ七人の子どもたち。』という書籍も出版しています。
なぜ、他の保護者が被害者側を責めるようなことをしてしまうのか。ご自身の経験や、これまで関わってきたさまざまな事例から、大貫さんが考えるところを聞かせてもらいました。
マスコミに事実を伝えた遺族を
糾弾した保護者たち
大貫さんの次男が命を落としたのは、2000年9月のことでした。大貫さんは当時離婚して子どもたちと離れて暮らしており、子どもの母親(元妻)からの電話で息子の死を知りました。
学校で一体何が起きたのか? 問い合わせてもなかなか回答はありませんでした。ようやく教員たちと面談できたのは、事故から約1か月後。その後のやりとりも含め、わかったのは以下のような事実でした。
息子は自死の前日、友達からお菓子をもらって食べたことで学年の教員らに呼び出され、1時間半ほど立ったままで指導を受けていました(ほかにも20人の生徒が同様の呼び出しを受けた)。翌日息子は、以前から予約を入れていた病院の検査に行くため学校を欠席したところ、夜になって突然担任から母親に電話が入り、指導を受けたことなどを告げられたのです。
母親によると、息子はこのとき事実を認めて謝ったということです。沈んだ様子だったのでそっとしておいたところ、その約40分後、息子はマンション高層階の自室から身を投げたのでした。突然母親に知られたことがショックだったのでしょう。部屋の床には、乱れた字で書かれた遺書が残っていました。
大貫さんは学校で息子に行われた指導について詳しく知りたかったのですが、当時はまだ事故調査の仕組みもできておらず、学校の対応は非常に消極的なものでした。結局「指導と自殺との因果関係はわからない」ということで話は打ち切られてしまいます。
このとき、数名の保護者が応援団を結成して大貫さんらを支援してくれましたが、そんな保護者ばかりではありませんでした。他の保護者のなかには、事件が市議会で取り上げられたり、マスコミ(テレビ等)で報じられたりするのを不快に感じる人もいたのです。