結局Yを裁いたのは向精神薬を不正に譲渡した麻薬取締法違反('18年1月逮捕・不起訴)。虚偽の診療報酬明細を提出した不正請求・詐欺罪(共に再逮捕)だった。
鹿児島地裁は'19年3月、詐欺罪で懲役2年、執行猶予4年を言い渡した。Yは控訴したが棄却。最高裁に上告するも裁判所はそれを退け、昨年2月、有罪が確定した。
Yは被害者たちに何を思うのか。入手した電話番号にかけたがつながらなかった。
被害を訴えても周囲に信じてもらえない
実は精神障がいに限らず、障がいのある人は性暴力の被害を受けやすい。
障がい児・者への性暴力撲滅を目指すNPO法人『しあわせなみだ』理事長の中野宏美さんは現状を訴える。
「医師や支援者ら顔見知りによる犯行も多い。ただ、被害者は加害者の接近が性行為を目的としていることや、その行為は性暴力だと気づけないこともある。何より、被害に気づいて訴えても周囲に信じてもらえない、障がいゆえの妄想だととらえられてしまうことも多い」
加害者は極めて計画的に犯行に及ぶ。狙うのは周囲に訴えなさそうな、おとなしそうなタイプ。恋愛関係と思わせ、性行為をするための信頼関係を構築する。
美紀さんのように転居させ周囲から切り離すこともある。証拠が残らない、目撃されないような状況に持っていく。身体障がい者はケアの中で、本来不要な身体接触の被害を受けることもある。
「障がいによっては誘導されやすく、司法が求める“証言の信ぴょう性”の担保が難しい場合もあります」(中野さん)
性暴力被害を法廷で証言することはただでさえつらい。精神的に不調だった女性には耐えられない。だから立件を躊躇してしまう被害者も多い。
前出の久明さんは訴える。
「Yの報復を恐れ、泣き寝入りを強いられている被害者は少なくありません!」
祐子さんも声を震わせ、
「私たちが本当に望むのはYが性犯罪者として裁かれることです。もう娘はいません。でも、新たな被害者を出さないためにもYを精神医療現場へ復帰させるわけにはいかない。そして治療という手段で性暴力を働いた医師が2度と医療現場に戻ることができないように法整備がされることを願い、声を上げ続けます」