『週刊女性』2021年2月9日号では、依存症の実態について特集している。患者やその家族など当事者の告白、専門医の解説などとともに、人間の心に巣くう欲望の闇を描いてきた作家の岩井志麻子さんにも寄稿してもらった。
◆ ◆ ◆
今回、依存症のカウンセラーをしている田中紀子さん(※記事下参照)に会って初めて、自分が依存症というものに大いなる誤解、思い込み、先入観を持っていたのを知った。
まずなんといっても、依存症になるのは「目先の快楽に弱い人」だと思い込んでいた。
自分を禁欲的で高潔に生きている人だなんて夢にも思わないが、健康を損ねるほど飲んだり、逮捕や失職の危険を承知でクスリをやったり、借金まみれになってギャンブルする人たちを、「刹那(せつな)の快楽に溺れる人」と見ていた。ところが明確に田中さんは、
「違います。依存症の人は快楽を求めているのではなく、自身の痛みや苦しみから逃げ
たいのです。快楽に溺れているのではなく、苦痛を緩和しているのです」
と答えてくれ、目から鱗(うろこ)が落ちるというのか、ひざを打ってしまった。そこに至る経緯を知り、想像をめぐらせてみれば、安易に彼らを「弱い人」「甘えている人」とはいえなくなる。
そして田中さんは続けて、これまた明快にいい切ってくれた。
「依存症の人やその主治医、カウンセラーが目指しているのはずばり、あなた。現在の岩井さんみたいな人なんですよ。失礼な表現かもしれないですけど、自分第一主義者というのか、とにかく自分が大好きな人。こういう人は、依存症にはなりません。自分から逃げる必要がないからです」
これは虚を衝(つ)かれたような気もしたが、実はうすうす感じていたことで、再び大いに腑(ふ)に落ちた。私が三大依存症と呼ばれる酒、違法薬物、ギャンブルに溺れないのは、それらに依存しない私ってかっこいいという、図太い自分自身に依存しているからかもしれない。
三大依存症のほかに最近では、ゲーム、SNS、買い物、ホストに依存する人たちも増えているそうだが。標的と定めた人を、ときには自殺に追いやるほどのネット上の攻撃をしてしまう人たちも、現実が不遇である、実生活に不平不満を抱えていることがほとんどで、
「まずは自分をクズと思っているから、誰かを『あいつもクズ』と叩くんです。そうしているときだけは、クズの自分を見ないですむ、自分をクズと思わずにすむからです」
という話も、胸に刺さった。このような時代、私もいつ「自分大好き」から「自分はクズ」に移行し、何かに溺れ逃げるのではなく、誰かを攻撃しなくてはいられない側に回るかもしれない。
ともあれ、依存症について読んだり聞いたりし、正しい知識は身につけておきたい。
《PROFILE》
岩井志麻子 ◎作家。1964年、岡山県生まれ。少女小説家としてデビュー後、『ぼっけえ、きょうてえ』で’99年に日本ホラー小説大賞、翌年には山本周五郎賞を受賞。2002年『チャイ・コイ』で婦人公論文芸賞、『自由戀愛』で島清恋愛文学賞を受賞。コメンテーターとしても活躍。
※田中紀子さんに取材した記事はコチラ〈当事者が語る“依存症”の誤解、あなたも今すぐ『LOST』『CAGE』で自己診断を〉