激辛ロケは罰ゲームではなくチャンス

 3つ目のキーワード「タレントの思惑」も、激辛番組増加の理由となっている。

 激辛料理を食べるロケは一見、誰もやりたがらない罰ゲームのような仕事に見えるが、実際は真逆であることが多い。基本的に激辛料理を食べるシーンは、「演技力、トーク力いらず」と言われている。通常の食リポは美味しさを伝えるコメントと表情が必須だが、激辛料理は食べたままを見せればOK。おのずとリアクションは大きくなり、大量の汗をかき、苦しむ姿を視聴者はそのまま理解してくれる。

 さらに、汗をかきながら必死に食べている姿を見て、視聴者と業界人の両方に「あの子は頑張っている」というイメージを抱かせられる上に、もし完食できれば感動を与えられる。また、汗で崩れにくいメイクもあるなど、ビジュアル面での不安が大幅に減ったことが、人気者やレジェンドの参戦を可能にした。

 少なくとも激辛と並んで流行っている「デカ盛り」よりもリアクションがしやすく、演技力とトーク力は不要で、頑張りが伝わりやすいなど、トライできそうな背景があることは間違いない。実際に挑戦してみると、その辛さから「二度とやらない」というタレントが多いようだが、一度なら好感度アップのためにやる価値はあるのだろう。

 最後のキーワード「コロナ禍」には、主に2つの意味がある。1つ目は、飲食店の時短営業や外出自粛などで自宅にいる時間が増え、ストレス解消の意味で「激辛」という刺激を求める人が増えていること。激辛料理のデリバリー可能な店舗が増えたほか、2月8日の『バゲット』が「激辛グルメが進化!全国お取り寄せ(秘)激辛グルメTOP5」という特集を放送していたように、家でも激辛料理が食べやすくなった。

 2つ目はコロナ禍でストレスがたまる中、「自分より華やかな世界にいてステイタスが高い芸能人が苦しそうな姿を見て留飲を下げられる」こと。だからこそ制作サイドは、人気アイドル、旬の俳優、レジェンド級のタレントなどを集めて視聴者のそんな気持ちに応えている。

 激辛料理は、強い胃痛、せき、痔の悪化などにつながるリスクもあるなど、トラブルがないとは言いきれず、万が一のことがあれば即終了は免れないだろう。ただ裏を返せば、トラブルがない限り、ますますエスカレートしていきそうなムードが漂っている。

木村隆志(コラムニスト、テレビ解説者)
ウェブを中心に月30本前後のコラムを提供し、年間約1億PVを記録するほか、『週刊フジテレビ批評』などの番組にも出演。各番組に情報提供を行うほか、取材歴2000人超の著名人専門インタビュアーでもある。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。