被害届を出せない「理由」

「避難所での強姦、強姦未遂も報告されていますが、それ以外では例えば授乳するところをジッと見られた、ストーカー行為をされたという話もありました。

 また、避難所に来ていた看護師の女性が、血圧測定の際に胸を触られたり、ボランティアの女性が後ろから繰り返し抱きつかれたケースも。注意したところ、ボランティアのリーダーから“ボランティアが被災者を叱って指導するとはもってのほかだ!”という声を向けられてしまったというのです。

 私たちの調査でわかったのは、被害者の年齢層が、未就学の子どもから60代までと、非常に幅広いということ。子どもの被害の中には男児がわいせつな行為をされた事例もありました。被害者と加害者の関係が被災者同士、支援者同士などパターン化されてなかったのも特徴です」

 震災後、東日本大震災女性支援ネットワークの一員として現場に足を運び、調査を進めてきた池田さん。池田さんらがまとめた冒頭の報告書には、こんな事例も記されている。

「避難所で深夜、強姦未遂。“やめて”と叫んだので、周囲が気づき未遂に防いだ。加害者も被害者も被災者だった。110 番通報したので、警察官が事情聴取したが、被害女性が被害届を出さなかった」(50 代女性

 この女性のように、当時は被害届を出さない人も多かった。その理由について池田さんは、

「まずは、加害者も同じ地域の人という場合も多い。今後も同じコミュニティーで生きていかなければならず、性被害を受けたことが地域の人に知れ渡ったり、加害者と正面から敵対したりするようなことは、できれば避けたかったんだと思います

 こういった被害があると、避難所では当然、環境改善を求める声があがると思うのだが、被災者にとってはそう簡単なことではないという。

「避難所の運営ってすごく大変なんです。自主運営の避難所は、地域の方が寝ないで目を回しながらやってる。しかも、東日本大震災は大災害でしたから、運営する側の人たちも、家族を亡くしながら頑張っているかもしれない。

 そんな中で、みんなのために物資のことや避難所のことで走り回ってる姿を見てしまったら、安全の問題まで対応してくださいとは、言い出しにくかった。ましてや、責任者が男性ばかりだと、ますます言い出しにくい

 そういった状況から被害を訴えられずに、泣き寝入りする人も少なくない。そんな被災地での暴力について、池田さんらは大きく2つの種類に分けている。

 ひとつは、雑魚寝が多く、トイレが男女別になっていないなど、環境が整っていないがために暴力が助長されてしまう「環境不備型」。そしてもうひとつが、被災して支援がなければ生き延びていけない人に、支援するかわりに、その見返りとして性行為や側にいて世話をするよう要求したりする「対価型」だ。