手術後、自殺する後輩たちへ

 麻紀さんを追いかけるように女性ホルモンを打ち、手術をして「女性」になった人たちが後を絶たなかったが、必ずしも望みどおりの幸せをつかんだとはいえない。女性ホルモンの副作用による頭痛や術後の違和感など肉体的苦痛の果てに精神が不安定になり、自殺する人も増えていた。

戸籍も変わって自分は女と思ってるのに、周りは誰も完全な女だと思わないわけじゃない。私はそれを承知してるから、長いことやれてるわけですよ。元男だから価値があるのに、女として完成したと思うから傷ついて死んでしまう。元男だからって、どうして開き直れないのと。ニューハーフの子たちを怒るんです

 麻紀さんは後輩たちには絶対、思いつきで手術をしないように諭している。

「自分のこと棚に上げてなんだけど、好きな男を手に入れようと思ってやるなら、やめたほうがいい、少なくとも1年はよく考えてからにしなさいと言うの。失敗も後悔もしてほしくないから」

 作家・桜木紫乃さんは、麻紀さんが“カルーセル麻紀になろうとしてなれなかった人たち”を山ほど見てきて、「なにかしらの負い目を感じてきたのではないか」と話す。だが、そんな麻紀さんにとって、救いとなる出会いもあったと明かす。

一昨年、麻紀さんとギャランティーク和恵さんのお店へ行ったとき、“元男の子で、戸籍も変えて、いまOLやってます”という女性に会ったんです。麻紀さんは、芸能や夜のお仕事をしている人はたくさん見たけど、女の子になって昼間のお勤めをしている人に会ったのは初めてだって驚いていました

 その女性は「私、すごく幸せなんです。麻紀さんのおかげです。ありがとうございます」と話し、麻紀さんは泣かんばかりに喜んだという。

 戸籍を変える第1号として、身体検査やカウンセリングには精神的な負担を強いられた。自分を「障がい」と認めないと通らないような質問をされ、何度も投げ出したくなった。

麻紀さんは“しんどかったけど、あれは無駄じゃなかったんだ、私、誰かのためにひとつでもいいことができたのかな”と話していました。これまでご自身が何を成し遂げたのか、はっきりした手応えをお持ちでなかったことに驚いたのですが、彼女の言葉にとてもうれしそうでした

 桜木さんは麻紀さんのことを「死んで花実は咲かない」と誰よりも知っている人で、常に咲いているために最大限の努力をした人だという。