大会関係者に比べて桁違いに多いのは、観客と大会スタッフである。しかも、その移動を担うのは公共交通機関だ。東京オリンピック・パラリンピックに関心のない人でも、東京近辺に住んでいる人ならば、その影響から無縁ではいられない。
もともと、観客数は780万人で、観客と大会スタッフ数を合わせると(立候補ファイルによれば)約1,010万人の予定だった。先日、海外からの観客の受け入れを断念すると発表されたが、それ以上の絞り込みについては明らかでない。
今後、観客数の絞り込みには注目が集まるが、大会スタッフの数にも注目すべきだ。
いずれにしても、通勤・通学とは異なり、遠方から大勢の人が一部路線に押し寄せることになる。感染拡大防止には相当な配慮が必要だ。
まだまだある「不安要素」
「ゆりかもめ」以外だと、どの路線の混雑が懸念されるか。
東京都オリンピック・パラリンピック準備局では、「交通需要マネジメント(TDM)による交通量の低減に向けた対策を何も行わなかった場合」という前提で、各路線の輸送影響度を公開している。
それによれば、もっとも心配されるのは「ゆりかもめ」だが、他にも心配な路線がある。
セーリング会場となる江の島ヨットハーバーは、小田急江ノ島線と江ノ島電鉄などがアクセスを担う。
江ノ島電鉄は2両1組で、しかも単線なので輸送力は乏しく、影響度の大きい路線としてランクインする。セーリングの競技日程が11日間と長いのも、感染リスクを考えると気がかりだ。
サッカーの会場は各県に分散する。そのうちの一つが埼玉スタジアム2002で、会場は駅から離れており、駅からシャトルバスが運行される。
最寄り駅は埼玉高速鉄道の駅だが、武蔵野線などの駅からもシャトルバスが運行される。
懸念は、サッカーの競技時間が夜間に設定されていて、終了時間が23時になるケースもあることだ。終電が繰り下げられるため、観客の足は確保されるが、混雑が深夜に及ぶことになる。
サッカーなどは、競技会場で観戦した人だけでなく、各地の繁華街などで多くの人が深夜まで盛り上がる。感染対策への意識も薄れるのではないかと懸念される。
オリンピックが開催されれば、多くの感動的なシーンを目撃することになる。そうなれば、開催に至るまでの反対論は吹き飛ぶかもしれない。
しかし、ワクチン接種が終わっていない段階で、本当に東京オリンピック・パラリンピックを開催しても大丈夫なのか。大会のイメージが具体化すればするほど、不安も大きくなる。
文)佐藤充(さとう・みつる):大手鉄道会社の元社員。現在は、ビジネスマンとして鉄道を利用する立場である。鉄道ライターとして幅広く活動しており、著書に『明暗分かれる鉄道ビジネス』『鉄道業界のウラ話』『鉄道の裏面史』などがある。