キー局では通らない企画やキャスティングも
『シグナル』には連ドラ、劇場版合わせて2つの“初”がある。まず坂口健太郎の連続ドラマ“初”主演。そして劇場版での坂口の“初”の本格アクション。実はカンテレドラマでは、こうした“初”が当たるケースが多い。
例えば反町隆史主演の『GTO』。反町初の自由奔放な演技がハマり、反町が単なるイケメン俳優ではないことをアピールした。次に阿部寛主演『白い春』では強面の遠藤憲一が初の優しい父親役を演じ、そこから遠藤の役柄の幅が広がったのは有名な話だ。『素敵な選TAXI』では芸人・バカリズムが初の連ドラ脚本を。『幽かな彼女』では広瀬すずが連ドラ初出演を果たしている。
『ゴーイングマイホーム』では名匠・是枝裕和監督が初の連ドラ脚本、監督をこなし、同作はロッテルダム映画作に正式出品された。全10話が上映されたが、日本の連ドラが全話上映されるのは異例。これをキー局ではなく地方局が成し遂げたのだから驚きだ。
「お金はないけど汗をかき、死にものぐるいでやっていく。王道の戦い方ではなく独自のやり方を模索。決して“置きにいかない”という精神を多くの先輩から学んできました」(萩原P)
置きにいかず挑戦していく──。例えば稲垣吾郎主演の『ブスの瞳に恋してる』ではヒロイン役に森三中の村上知子が起用されているが、こんなチャレンジはキー局では通らなかったかもしれない。バカリズムも『世にも奇妙な物語』で脚本を担当しているものの、いきなり連ドラ脚本というのは素人目にもリスキーだ。
「大阪の局ということもあるかもしれません。制作担当者が何をやりたいか、何が面白いと感じるのか。しっかり伝えれば上の者がそれを理解してくれる土壌があります。『バカリズムさんが連ドラ脚本!? 初!? ……おもろいやん!』と面白がってくれる環境があるのです」(豊福P)
かといってすべてがうまく行っていたわけではない。2015年の『HEAT』では初の消防団を題材としたドラマを制作。事前に映画化も決まっていたが、視聴率は振るわず映画化は白紙になった。これが初の連ドラ担当作品となった萩原Pは「自身に足りない面を知った。先輩からの優しい声に泣きもした。そしてここで“諦めちゃいけない”ということを学びました」と振り返る。
ところで、そんな関西テレビの土壌とやや似た局がある。テレビ東京だ。以前、筆者がテレ東プロデューサーに話を聞いたところ、テレ東では一度企画が通ると、上司は細かくチェックせず作り手が作りたいものに賭けてくれるという話を聞いた。これを話してみたところ豊福Pは、
「勝手ながら弊社と似た面を感じる」
そう答える。
「弊社にもキー局では通らないこともやってみようという意識がある。観てくださる方が『なんか面白いことやってるな』と思ったらカンテレだった、そう思われる番組作りをしたい。そういう意味ではテレ東さんに追いつきたいですね」(同前)
文化は決して中央=東京だけが作っているわけではない。その周辺=キー局以外の奮闘でカルチャーはより磨かれていくのではないか。カンテレの、そしてそのほか地方局の、ひいてはすべての地域の“置きに行かない”頑張りに今後も期待したい。
『シグナル』のセリフにもあるように、“諦めなければ、希望はある”のだから──。
(取材・文/衣輪晋一)