木村大作監督が語る俳優・岡田准一
「ファインダーを覗くことを楽しみにさせる」
「ずっと前から彼は歌よりも俳優を目指していたんじゃないかな。現場で見ていても、作品に対する取り組み方なんか完全に役者だよ」
2017年の『追憶』ではキャメラマン、2018年の『散り椿』では監督として岡田准一と映画を作り上げた木村大作監督。“世界のクロサワ”と呼ばれた黒澤明監督の作品に撮影助手として参加。キャメラマンとして独立した後も数々の作品に携わり、『日本アカデミー賞』の優秀撮影賞を22回、うち最優秀撮影賞を6回受賞。最優秀監督賞も1回受賞し、2020年には文化功労者にも選ばれた、まさに“レジェンド”の映画人だ。
「作品への取り組み方として、例えば、岡田さんは現場に台本を持ってきてる様子がない。でもね、1回もセリフをミスったことはないよ。全部、頭の中に入れて現場入りしているんだよ。もしかしたら隠し持っているのかもしれないよ(笑)。だけど、現場で目につくところには置いてない」
岡田以前、木村監督がこれまで自身が参加した撮影現場で、セリフをミスらなかったことで記憶にある俳優がいる。それは─、
「高倉健さん。僕は40年間、9本の作品で付き合ったけど、セリフをとちったことが1度もなかった。将来、名優となる人というのは、若いときからそういう素地があるんだよ」
どんな表情を見せてくれるのか
また、セリフに限ったことではなく、キャメラマンとして岡田の持っている魅力についてこう語る。
「岡田さんは、キャメラのファインダーを覗くのを楽しみにさせてくれるんだ。どんな表情を見せてくれるのだろう、って。セリフを言うときに感情をつくる俳優さんは多いけど、彼はセリフがあろうとなかろうと、いつも感情が入っている。
だから、自分が監督した『散り椿』では、彼が無言のところをずいぶん使ったよ。その佇まいだけで完結できる俳優さんですよ」
木村監督と岡田の出会いは『追憶』。当時、岡田については、「何かのアイドルグループにいて、俳優として出ている作品がヒットしている」程度の知識しかなかったという。しかし、ファインダー越しに見た岡田に惚れ込み、彼のある経歴にも惹かれたという。
「岡田さんは10代のときからアクションが好きで、いろいろな格闘技をやられてますよね。そういう人じゃないと、本当の意味の殺陣というものができないと思ったんだよ」
岡田にオファーをかけた『散り椿』は時代劇。作中、脱藩して浪人となった剣の達人を岡田は演じている。
「彼がいないと作り出せない世界だと思ったから、オファーしました。殺陣師もつけていたけど、現場で岡田さんがつけた殺陣のほうが面白かったんだ」