女優・冨士眞奈美が古今東西の気になる存在について語る当企画。今回は、名だたる画家とのユニークな交友について。
日本洋画界の巨匠がモデルに指名
年を重ねるにつれ、わかってくること、理解できることが増えていく。若い時分というのは、なかなかモノの価値というのがわからない。そのひとつに、絵の価値があるのではないかと思う。
かつて、『週刊朝日』が多士済々の15人の画家に表紙を描いてもらい、読者による人気投票を行う「表紙コンクール」という企画を、定期的に開催していた。東郷青児さん、三岸節子さん、梅原龍三郎さんなど名だたる画家たちが表紙を描くのだけれど、条件として必ず画家自身が選んだモデルを1人だけ立てて表紙用に描く──。
高峰秀子さん、原節子さんといった超有名な女優さんが選ばれる中、どういうわけかNHKに所属したばかりの新人女優である18歳の私に白羽の矢が立った。しかも、矢を立てたのは、日本の洋画界に多大に貢献された小磯良平さん。
あの迎賓館の大広間の壁画「絵画」や「音楽」を制作し、後に文化勲章を受章する巨匠が、なぜ名もないひよこを選んだのか、今になってもわからない。
当時の私は、もっとわからない。「小磯さんという先生はどうやらすごい人らしい」、その程度の理解しかない私は、言われるがままアトリエのある逗子に3回ほど通い、表紙はできあがった。
「表紙コンクール」すらよくわかっていない私の心とは裏腹に、小磯先生が描いた表紙は1位に選ばれた。『少女像』という形で、今でも時折展示されていると仄聞(そくぶん)する。
描き終わった後、画家の先生はそのデッサンをくださるとおっしゃったんだけど、価値というものがわからなかった私は、忘れていただかなかった。今だったら、飛び上がって、喜んでいただくのに。