わが子に「人を殺してみたい」と言われたら
「人を殺してみたい」
「事件を起こして自分も死ぬ」
子どもの口からこんな言葉が出たらどうすればよいか。嫌なことから逃げているだけ、本気ではないと考える人も少なくないかもしれない。
「成績もいい子だったので、まさか、本気だとは考えませんでした」
「私たちは子どもに手を挙げたことなんて一度もありません。だから、うちの子がまさか人を傷つけることができるなんて考えられなかったのです」
実際、殺人事件を起こした子の親たちの中には、兆候を見過ごしてしまっているケースも多い。もし、子どもがこのような言葉を口にしたなら、叱責することはせずに、「なぜ、そのように思うのか」じっくりと耳を傾けてあげてほしい。行動を正そうとする前に、なぜ、よくない行動を取るのか、その原因を明らかにすることが大きな事件を防ぐことに繋がる。
名士ほど相談に繋がりにくい
筆者は、これまで200件以上の殺人事件の家族を支援してきたが、そのほとんどが経済的には中流以上の家庭であり、地元の名士というケースも珍しいわけではない。
経済的に恵まれた環境だからといって、反社会的な行動の原因を「親の甘やかし」と単純に結論付けるべきではない。裕福で名の知れた家庭ほど、親族間の人間関係が複雑であったり、過度に世間体を気にするあまり、子どもへの躾が厳しかったりと、穏やかな環境ではない家庭も決して少なくはない。
社会的地位のある人ほど、世間体を気にして問題を抱え込む傾向にあり、社会的に孤立していく傾向にある。
報道によれば、7日に逮捕された岡庭容疑者の一族も地元では有名な名士だというが、通り魔事件のあと、損害賠償の支払い等で経済的・精神的に追いつめられていたという。このような不安定な家庭環境で、凶悪事件を起こした少年が更生できるはずなどない。社会的孤立は確実に異常行動を悪化させたといえる。
犯行に至るまで、彼と家族に何が起きていたのかーー。二度と同じような事件が繰り返されないためにも、真相究明が求められる。
阿部恭子(あべ・きょうこ)
NPO法人World Open Heart理事長。日本で初めて犯罪加害者家族を対象とした支援組織を設立。全国の加害者家族からの相談に対応しながら講演や執筆活動を展開。著書『家族という呪い―加害者と暮らし続けるということ』(幻冬舎新書、2019)、『息子が人を殺しました―加害者家族の真実』(幻冬舎新書、2017)など。