――逆に快感を覚えるときは?
タ:本命と絡めるときじゃね? チェキ撮ったときとか。
ミ:本命のためにお金を使うときは快感。でも、家帰ったら病むっていうね(笑)。
ア:あ、バンギャってホス狂(ホスト狂い)になる人も多い気がするんだけど、たぶん推しにお金を使うときに快感を覚えるのはそれに近い。
――なるほど。みなさん上がれる(ファンを辞められる)ものなら上がりたい?
ア:まだいいかなぁー、って思う。
タ:あたしはマジでそろそろ上がりたい!
ミ:けど、上がれないんでしょ?
タ:うん(笑)。結局、楽しいんだよね。
バンギャは“病み”より“楽しみ”が勝つ
本人たちに聞いてわかったのは、先述した「奇抜・ボロボロ」は、まぁほぼ事実であろうということ。しかし「孤独を嫌う」は半分正解で、おそらく、孤独を感じているものの、そのうえで孤独な自分を愛しているのだろう、ということだ。
また、無意識に「メンヘラであり続けたい」と願っているのかもしれないという気もした。彼女たちのテンションがMAXになったのは、ラストの「どんなときに病む?」という話題になったとき。「私は病んでいる」と宣言することに快感を覚えている印象を受けた。
ただ「メンヘラである」という宣言にそこまでマイナスなイメージを持っている様子ではなかった。昔、2ちゃんねるでメンタルヘルス板が流行ったころは、メンヘラ=「危ないやつ」というイメージだったが、いまではかなりフランクな言葉になっているのだろう。
ではV系のどんな部分に、バンギャの“メンヘラセンサー”は反応するのか。
1つは「美しさや不安定さ」だろう。彼女らにはおそらく「外見のコンプレックス」がある。半分拒食症のようになっているのも、ニキビができて病むのも……そして何より、V系に熱中するのも「美しいものに固執する」というマインドがベースにある。
2つ目が「自己承認欲求」だろう。もともと「病めば周りが心配してくれる」という歪んだ成功体験がある。そこにバンドマンという美しい存在から認められる、というさらなる成功体験が発生し、虜(とりこ)になってしまう。さらに、貢ぐことで存在を認められる。なので貢ぐ。そして病む。
3つ目が「バンドマン自体の弱さや危うさ」。センサーが反応する対象としてはこれがもっともも大きそうだ。何よりバンドマン自体がメンヘラの猛者だ。メンヘラを存分にアピールする世界観や楽曲、歌詞などが特徴である。すると、もともとメンヘラだったバンギャは、まるでエサを与えられた鯉のように集まるわけである。
今回の調査に限っていえば、「バンギャ=メンヘラ」はどうやら確からしい。しかし少なくとも、私の前で話をしていた彼女たちは、白目のカラコンを入れたまま、とても生き生きと自分たちの生きざまを話していた。
彼女たちにも“病み期”はあることだろう。しかし、バンギャのコミュニティに入ったから出会えた友人もいるだろうし、現場で首が取れるほどヘッドバンディングをすることに快感を覚えているはず。「V系バンドを通して、バンギャたちはメンタルを病む以上に楽しみを覚えているのだろうな」と感じたのが正直なところだ。
帰り際に「じゃあね~!」なんて言い残し、歌舞伎町の通りを闊歩(かっぽ)する奇抜な4人組の後ろ姿には、圧倒的な多幸感があった。そんな彼女たちを見ていると、「メンヘラ」よりも「好きなことを追い続ける素敵なコミュニティ」といったほうが「バンギャ」を表す言葉にふさわしいと思えた。
(取材・文/ジュウ・ショ)
【PROFILE】
ジュウ・ショ ◎アート・カルチャーライター。大学を卒業後、編集プロダクションに就職。フリーランスとしてサブカル系、アート系Webメディアなどの立ち上げ・運営を経験。コンセプトは「カルチャーを知ると、昨日より作品がおもしろくなる」。美術・文学・アニメ・マンガ・音楽など、堅苦しく書かれがちな話を、深くたのしく伝えていく。note→https://note.com/jusho