海外ロケにも和枝さんを連れて
スタッフや共演者、誰からも愛される存在だったが、彼らを連れ歩いたりはせず、仕事が終わるとパッと自分から離れていく─。
「オフもほとんど自宅で過ごしていたから、どんなに親しくても俳優仲間と会ったりすることはなかったんじゃないか。仕事に“私”を持ち込まないのが彼の美学でした」
それは逆に“私生活に仕事を持ち込まない”ためでもあった。'70年に結婚し50年以上連れ添った妻・和枝さんとの時間を何よりも大切にしていたからだという。
東京・銀座の紳士服店の社長令嬢であり、カナダの大学への留学経験もあった和枝さんは結婚以来、専業主婦として家事はもちろんひとり娘の子育てまで、すべてをひとりでこなし、田村さんを支え続けた。私生活を仕事場に持ち込まない田村さんが唯一、彼女のことだけはしばしば自慢していたという。
「“ウチの奥さんは100点満点”って。『ニューヨーク恋物語』の撮影でニューヨークに滞在したときは、和枝さんを日本から呼んで3か月間向こうで暮らしたんですから。家族の目もマスコミの目も届かない海外での長期ロケとなれば普通は羽を伸ばしたくなるでしょ? そこに奥さんを呼ぶ俳優なんて正和さん以外いませんよ。それだけいつもそばにいてほしい存在だったんでしょうね、和枝さんが」
その田村さんが1度だけ、こんな問いかけを和枝さんにしたことがあった。結婚して3年ほどたったころのこと。
「当時は正和さんも20代半ばで若かったから夜遅くまで遊び回っていたんです。何せ周りが放っておかないからねぇ(苦笑)。それで和枝さんとケンカになって。“俺が浮気してないとは思ってないだろ?”と言ったそう。
もちろん本当に浮気していたわけじゃなくて、ちょっとした意地悪だったんですが、和枝さんは笑いながら“するなって言ったって無理なんだから、それは考えないようにしているの”って。正和さんは、その日以来、飲み歩くのをピタッとやめたそうなんです」
最愛の女性に見送られ田村さんは旅立った。比翼連理の誓いは昔も今も永遠に。