過酷すぎる処分は違法
では、法律的には問題はないのだろうか? 今回の処分について、弁護士の山口元一さんにお話を伺った。
「日本相撲協会が協会作成の新型コロナウイルス対策のガイドラインに違反した大関朝乃山に下した出場停止6場所の処分は、朝乃山が大関から陥落し、三段目以下となるものです。同時に6か月間50%の報酬減額も下されました。果たしてこれは適法か? です。
緊急事態宣言中のキャバクラ通いは、誉められた行動ではないし、ガイドラインには違反しているのでしょうが、所詮は私生活上の行状に過ぎません。
番付の低下による減収もあわせ、これが仮に労働者に対する懲戒処分であれば、協会の調査に対して一度は否定したこと、看板力士として業界の社会的な評価に一定の責任を負っていることをあわせて考えたとしても、あきらかに行為と処分のバランスを失しており、過酷すぎる処分として違法となると思います」
大相撲の力士は労働者として相撲協会に雇用されているのか、その特別な能力をプロとして提供することを委任しているのか、実は契約があいまいなんだそう。ただ、会社で働く労働者と同じように見て懲戒処分を受けるにしても、今回の処分は明らかに重いという。
また、「雇用か委任か」という面を捉えて考えるには、たとえば日馬富士の事件の際に白鵬や鶴竜まで減給処分になったのは「労働基準法91条が定める制裁制限の幅を超えていました。これは日本相撲協会が力士所属契約について、雇用契約たる性質を否定していることを示しています」と、労働者として雇用されている面を否定していたんだそう。
法律はなかなか難しい。とはいえ、山口弁護士は言う。
「そこにはやはり、協会の力士に対する指揮・監督を要素とする支配-被支配の実体が見えます。長い歴史を持つ相撲興行の世界において、全面的に労働関係法制が適用され得るか否かはともかく、日本相撲協会の力士に対する懲戒その他の処分が、法律上何らの制約を受けない、協会の“やりたい放題”になっているのは不合理であると見ます」
と、ここ最近のこうした処分の在り方には、疑問を呈している。
ただ、相撲協会へひとつ同情したいのは、こうした処分を決めるコンプライアンス委員会ができたのは2018年12月。前年11月の横綱・日馬富士の事件への対応で相撲協会はひどいバッシングを受け、いち相撲ファンの私自身も大いに傷ついていたところ、今度はその被害者であった貴ノ岩が付け人を殴打する事件が起きて、再び大騒ぎに。委員会が設立され、暴力問題以外でもコンプライアンス委員会が処分を決めることになった。
力士/親方の事件はその後も何度も起こり、その度に身近な存在である大相撲に対してはテレビのワイドショーやSNSを中心に制裁を求める声が巻き起こり、委員会の規定は厳しさを増していったように思う。
元々大相撲の世界は大らかで、多少のことには目くじら立てない。スポーツ、興行、神事というほかのスポーツ団体とは一線を画す多様さが魅力であるのに、ひたすら正義を追い求める世論に押されてしまったことは感じる。
そしてコロナ禍という興行的にも非常に厳しい状況にあって、看板力士を自ら窮地に追い込む形になってしまい、相撲界よ、どこへ行く? と、心配にこそなってくる。
まずやるべきは、肩の力を抜いて、とりあえず深呼吸。大相撲の大らかな文化を今一度思い出すこと、ではないだろうか?