女芸人として葛藤する中、「謎かけ」でブレイク

 芸人は楽しかったが、売れないのはつらい。下積み時代は葛藤の連続だった。

「4年目くらいまでは、絶対いつか売れると根拠のない自信があったんです。だけど26歳くらいになると親も当たりがキツくなってきて。母は『引き返すなら今だよ。医療事務の資格をとって社会保険のあるところに勤めてお見合いしなさい』って……。それはありえないと拒絶したけど、だんだん自分には本当は何もないんじゃないかと思うようになっていって。初期設定では30歳までに売れて、結婚して子どもも産んでいるはずだったんですが」

 お笑いの世界は、今も「男芸人より女芸人のほうが下」という暗黙の了解がある。男性芸人に胸をもまれ、身体をよじって逃げようとしたら、「まだまだ女やな」と言われた女性芸人もいるそうだ。ネタを書いていると言えば「うちに来なよ」と下心丸出しで誘ってくる男性芸人もいる。

「女芸人は容姿をいじられて笑われる。それを“おいしい”と思わなければいけない雰囲気もある。女を捨てないとおもしろいと言われないのか、女であることを利用して笑いをとったほうがいいのか。男社会の中で常にそんなことを考えていました。本当は私だって裸で泥の中に飛び込んだりしたい。女だからできないこともたくさんある」

 そんな彼女を救ったのが、冒頭の「謎かけ」である。謎かけで有名な芸人・ねづっちさんと同じ舞台に出たときに、ごく普通の謎かけを披露。言葉選びの巧みさを評価され、コージー冨田さん主催の謎かけを“がっつり”2時間やるライブに誘われた。そこで「ハンガー」というお題が出たとき、彼女の頭の中にひらめいたのが「ちんこ」だった。口にしていいものかどうか迷ったが、ほかの言葉がいっさい出てこない。「ごめんなさい」と叫んで、目をつぶって言ってしまった。

「ちんこと解きます。その心はどちらも、かけます」

 その思い切った発言が彼女を有名にするラッキーツールになった。

 アナウンサーの吉田照美さん、伊集院光さんなどが絶賛したことで、彼女の名前は知られるようになった。だが、「下ネタ」をやる女芸人ということで誤解されることも多くなっていく。

「謎かけは昔ながらの言葉遊びでおもしろい。そこに下ネタをかけたら、誰も傷つけない笑いになる。女としてエロを売っているわけではないんですよ」

 その真意がなかなか伝わらなかった。ライブに「歯のないおじさん」がやってきて、コンビニで買って振り回し、ぐじゃぐじゃになったプリンを渡されたこともある。エロを売り物にしている女性への侮辱なのだろう。

「その後、深夜番組などに少し出してもらえるようになったけど、別に“売れっ子芸人”になれたわけではない。むしろ家族に迷惑かけているのかなと思ったし、やっぱり芸人を辞めたほうがいいんじゃないかと自分を追い詰めていました。でも、母が言うように医療事務の資格をとろうか、ハローワークに行こうかと考えたら、なんだかひどくしんどいんです。やりたくないことをしなきゃいけない環境から逃れてきたのに、またあそこに戻るのかと思うと、眠れなくなってしまって……。

 そうだ、コントのネタを書いてみようと思いついたんです。そうしたら急に身体がラクになってきて、書いているだけですごく幸せな気持ちになった。何度も辞めたいと言ってきたけど、何がなんでも私はお笑いにしがみついていないといけないんだと思いました」

 芸を磨くこと、それこそが自分の生きる道だと彼女は思ったという。

「よく下積み時代はお金がなくてつらいとかいうけど、収入ゼロでも全くつらくなかったですね。だって苦手な教科が一切出てこなくて、好きなことが極められる。オリジナリティーをどう出すか試行錯誤するのが楽しくて仕方なかった」と紺野 撮影/伊藤和幸
「よく下積み時代はお金がなくてつらいとかいうけど、収入ゼロでも全くつらくなかったですね。だって苦手な教科が一切出てこなくて、好きなことが極められる。オリジナリティーをどう出すか試行錯誤するのが楽しくて仕方なかった」と紺野 撮影/伊藤和幸
【写真】金髪・ガングロ・露出度高め、ギャル時代の紺野ぶるま