ブーゲンビリアを見て、てっちゃんを思い出す
私が結婚するとき……私はその後10年間女優を休業することになるのだけれど、新宿の老舗居酒屋「どん底」で披露宴を開いた。多士済々の飲ん兵衛が集まるなか、てっちゃんも来てくれた。そのとき、彼は私の妹と弟を片隅に呼んで、「君たちはきょうだいなのになぜ反対しなかったんだ?ダメだよ、結婚なんかさせちゃ」。そう伝えたらしい。
私は、そんな裏話があったなんて寝耳に水。つい先日、2人から「実はあのとき石立さんから……」と教えられた。どうやら元夫の女性関係について耳に入れていたらしい。実際、私は離婚をしたわけだから、その話を聞いたとき、空の上にいるだろうてっちゃんに、「なんで直接言ってくれなかったのよ」って、ぼやきたかった。
でも、彼は本当に優しい人だった。私に子どもが生まれたときのこと。1人でやってきて、赤いカーディガンとブーゲンビリアの鉢をプレゼントしてくれた。一年もののブーゲンビリアといっていたけど、まったく枯れる気配がない。私は翌年、クリスマスのもみの木の鉢に植え替え、お米のとぎ汁なんかを注いでときどき、「てっちゃん、こんにちは」なんて声をかけて育てていた。
気がつくと、毎年、たくさんの花を咲かせるようになって、今もまだ元気に花を咲かせている。もう40年以上はたつかしら。わっと咲いている根元に、どこからかやってきた鳥が播種したのか、いつの間にかブーゲンビリアを囲むように、色鮮やかにいろんな種類の花が1つの鉢に花笑んでいる。
とってもにぎやかなブーゲンビリアたちを見ては、私はてっちゃんのことを思い出す。
冨士眞奈美 ●ふじ・まなみ 静岡県生まれ。県立三島北高校卒。1956年NHKテレビドラマ『この瞳』で主演デビュー。1957年にはNHKの専属第1号に。俳優座付属養成所卒。俳人、作家としても知られ、句集をはじめ著書多数。
〈構成/我妻弘崇〉