共同親権導入に立ちはだかる“壁”
また、親権問題で近ごろ耳にするのが共同親権という言葉。2人の子どもを台湾人の元夫との共同親権にした福原愛や、棋士の橋本崇載が子どもの共同親権をSNSを使い訴えるなど、著名人の言動も注目を集めるきっかけになった。
「共同親権を求める男性は最近非常に増えています。全面的に子どもの面倒を見るのは大変だけど、母親だけが親権を持つのはズルイと主張する。これからの時代を象徴するケースですね」(池内さん)
とはいえ日本では離婚後は単独親権、つまりどちらか一方が親権を持つよう法律で定められている。実際、
「今年2月に母親の単独親権は違憲だと訴えた男性がいましたが、裁判所はこれを退けています」(高橋弁護士)
争ったところで勝ち目はまずないようだが、世界には共同親権を採用している国は多い。日本でも導入が叫ばれているが、池内さんは「少なくともあと10〜20年は導入されないでしょう」と予測する。
「導入の壁は戸籍の問題。離婚すると子どもは一方の戸籍に入りますが、共同親権となると戸籍法を変える必要がある。伝統や慣習など意識を根底から変えなければならず、日本人にはそぐわないのでは」(池内さん)
高橋弁護士は現実面の問題について言及する。
「共同親権となった場合、子どもの住む場所や金銭面など実際の生活をどうするか。父母の意見が分かれると、子どもが板挟みになる危惧がある。まだ具体的な提言は少なく、議論の余地は多分にあると思います」
芸能界で広まる父親の親権獲得の動き。一般には父親が親権を持つのは現状では難しいというが、今後はどうなっていくのだろう。
「一般にもこの傾向は広がっていきます。なぜならいくつになっても恋愛したい、働きたいと思う女性が増えているから。キャリアアップを考えたとき、子どもがいると難しい。人生をやり直したいと願う女性がいる一方、イクメンの増加や少子化の影響で男性の子どもに対する思い入れが強くなっている。男女双方の意識の変化が背景としてある」(池内さん)
高橋弁護士も同じように、時代とともに変わっていくだろう、と語る。
「以前は父親の多くが親権を主張してもダメだとハナから諦めていましたが、男性も主張していいんだという風潮が生まれてきている。母親の親権優先という裁判所の基本的な判断は変わらなくとも、話し合いの中で父親が親権を持つ可能性が増えていくことは考えられます」
父親側の親権獲得のハードルは日本ではまだまだ高い。しかし子育てに対する父親母親双方の意識の変化は顕著で、複雑化する状況に合わせた法整備などが必要になりそうだ。
(取材・文/小野寺悦子)