「あれだけ事前の宣伝にも力を注いだ。原作の人気といい、キャスティングの豪華さといい失敗の許されない作品。ヒットにかける木村拓哉の必死な姿勢を感じましたね」

 映画配給関係者がそう指摘するのは、17日に公開された映画『マスカレード・ナイト』。週末の観客動員数を伝える映画興行ランキングで、初登場1位に踊り出た。

 俳優の木村拓哉(48)がホテルスタッフに扮する刑事を演じ、原作はベストセラー作家の東野圭吾氏。全国356館で封切られ、初日の興行収入は前作『マスカレード・ホテル』(2019年)に比べ107%増という幸先のいいスタートを切った。

「フジテレビ製作の映画ですが、テレビ局の枠を飛び越えて、他局も宣伝にひと役買ったというか、駆り出されたというか」

 そう苦笑いで明かすのは情報番組デスクだ。情報番組が取り扱ったのはもちろん、

「TBSの『ニンゲン観察バラエティ  モニタリング』などバラエティー番組にも木村さんが出演し、映画の宣伝の尺が取られていました。他局の製作物件は基本、取り扱いを嫌がるのものですが、木村さんは別格。バラエティー番組に出演してもらえるならオッケー、という方針です。例えば『相棒』だったらそのタイトルを自局に乗せるのは編成NGになりますが、『マスカレード~』はその点、オッケーでした」

ジェンダーへの配慮も

 バラエティー番組に出演するほかにも雑誌の表紙を飾ったりインタビューを受けたり、

「木村さんの作品にかける必死な思いがわかるほど、宣伝に協力的でした。映画専門誌はもちろん、ファッション誌や男性週刊誌など30近いメディアにインタビューが掲載されましからね。加えてテレビ出演。ほかの仕事を縫ってでても、座長としての責任を果たした感じです」(前出・映画配給関係者)

 撮影はほとんど東宝スタジオで行われたが、そこでも木村の配慮が示されたという。

「通常、撮影現場には多くの出演者が差し入れをしますが、コロナ禍の今、食べ物の差し入れは遠慮してもらっています。木村さんは、空気清浄機、消毒液、それに映画を象徴するベネチアンマスクをデザインした特性マスクを、スタッフ全員に差し入れたのです。『メルカリ禁止だからね』と冗談が交わされるほど貴重なマスクですからね。みんな大喜びでしたよ」(前出・映画配給関係者)

 そんな木村の気遣いに加え、前出・情報番組デスクは、世の中の変化を敏感に感じ取っている木村の姿を伝える。

「メディアの紹介記事も、パンフレットには普通に『ホテルマン』と書かれているんですが、木村さんは違った。ジェンダーに配慮して、『ホテルスタッフ』と表現するんです。もともと『ホテルマン』は現場より管理職より上の立場の人に通用する言葉のようで、そのあたりを木村さんが気にして使っていたら、結構アンテナを張っているなという感じがしましたね」

 木村を中心に長澤まさみや小日向文世、石黒賢、沢村一樹、木村佳乃、麻生久美子、高岡早紀らこれ以上ない豪華な座組、初日に向けて木村の過去作品(映画&ドラマ)の度重なる放送、民放各社の宣伝協力体制は、木村拓哉でなければ成立しない。

 常に1位のプレッシャーを受け、それにつぶされないエンタメ提供者であり続ける木村拓哉という存在。映画評論家筋の、決して手放しで絶賛しない評価も、木村拓哉の前では無力だ。

〈取材・文/薮入うらら〉