ここで視線が海外に移る。
「国内で移籍先が見つからない状況。たまたま読んだサッカー雑誌で“シンガポールリーグで外国人選手を探しています”という記事を見つけました。
日本で(移籍希望の選手を集めての)セレクションがあると。大学のときにシンガポール旅行をしたことがあって、それでシンガポールという国自体にすごくいいイメージを持っていたので、日本で移籍できるチームがなかったこともあり、海外に行ってみようというところからスタートしました」
「良い選手=活躍できる」ではない
シンガポールから、18年に渡るサッカー“海外組”生活がスタートした。本田以上に海外チームでプレーした伊藤が思う、“海外でプレーし続けることの難しさ”とは?
「国によってサッカーのスタイルはもちろん違うし、文化も違う。長年同じ国にいると、その国のこともわかるし、周りも自分の性格やプレースタイルなどもわかってくれてプレーしやすいと思うのですが、僕のようにしょっちゅう移籍していた人間というのは、ある程度築き上げてきたものを、一度捨ててまた新たな環境に飛び込んでいるので、やはりすごく適応能力が求められる。
プレーはもちろんなんですが、(試合や練習ではない)ピッチの外での振る舞いの部分を海外の人は大事にしていて、見ている部分。例えばチームメイトに食事に誘われたら、めんどくさいと思っても、一緒に行ってバカ騒ぎするだけで、やっぱりチームメイトは仲間として受け入れてくれる」
プレーした各国では、あまり現地の言葉はしゃべれなかったという。
「ニコニコして親指立ててるだけで、“あいつは溶け込もうとしている”と仲間に入れてくれて、それがピッチにも反映されて、ボールが回ってきたりする。
それは逆も然りで、別の外国人でいい選手がいたとしても、孤立したり、助っ人外国人だからといって上から目線で接しているような選手はあまり快く思われていなくて、チームの結果が出ていないときは、真っ先にそういう選手が(批判の)矛先になってしまう。
だから一概に良い選手だから活躍できるというわけではないですよね。いろいろな部分で適応能力が求められるのだと思います」
22もの国。特に大変だったのは……。
「インドはちょっと大変でしたね。給料も良かったし、観客も入ってるし、レベル的にも低くはなくて問題ないんですが、日本と生活スタイルが180度違うというか。試合の直前にもカレーが出てくるし、とにかく毎日カレーを食べて。“これちょっと食えないな”とも言えないし(笑)。
僕のポリシーとして現地に行ったら現地のものを食べる。現地のものが8、和食が2くらいの割合で食べていたんですけど、それまで試合直前にカレー食べてサッカーするというのが人生になかったので……。僕もカレーは好きなんですけど、毎日1日3食カレーで。試合直前に食べるもんじゃないというか(笑)。でも“そんなの食べられない”って言ったら、やっぱりなかなかチームに溶け込むことができない」