エリック・クラプトンから手作りのネックレスを
アーティストの中には帰り際に手紙をくれたり、お礼にとプレゼントをくれる人もいたという。
「スティングは手紙を書いてくれる人ですね。リッチー・ブラックモアは変人と言われている人ですけど、『こんなに進んで仕事をやってくれるのはお前しかいないよ』と言ってくれて、本当に嬉しかったですね」
リッチー・ブラックモアはイギリス出身のギター・レジェンドの一人。ハード・ロック・バンド、ディープ・パープルのオリジナルメンバーで、日本では、その特異なキャラ含めて人気が高い人だけど、高橋さんとは「部屋のバスルームにチューブにんにくをつけられたり」、その仕返しに「部屋のタオル類や電球のタマをはずしてやったり」と真剣にいたずら合戦をした。いい大人が‥‥‥と失笑する人もいるかもしれないけど、
「いたずら合戦をしながら信頼関係を築くんです。誰もリッチーに仕返しなんてしようとしない。けど、僕はとことんそれに付き合う。ミュージシャンて、そういうことに価値を見出す人たちだから、それに真剣に応えるって大事なことなんです」
高橋さんの誠実な仕事っぷりには、ギターの神さまと呼ばれるエリック・クラプトンも信頼を寄せ、クラプトンからは意外なプレゼントをもらった。
「買い物に付き合ってアルマーニに行ったときには『どれが好き?』と聞かれて『これかな』なんて答えると、それを買ってくれちゃう。値段なんて見ないですよ、もちろん。あと、自分でビーズや石をつなげてネックレスを作って、みんなにプレゼントするんですよ、彼は。どうやら60年代からヒマつぶしに作り始めたらしいんですけど、今、僕がつけてるこれも、エリックが作ったものです」
と、zoom画面の向こうで高橋さんが見せてくれたネックレス。えええっ、すごい。
「1メートル四方ぐらいの大きなプラスチック・ケースを持っていて、中は5センチ四方ぐらいの箱に分かれているんですけど、そこにいろんな石が入っています。それをヒモでつないで、バンド仲間やスタッフなんかにプレゼントしてるんです。お酒を飲んだくれてるよりいいでしょう(注・クラプトンは昔、ひどいアルコール中毒だった)」
ものすごく意外! そりゃギタリストだから手先は器用だろうけど、よもやギターの神さまがちまちまとビーズやら石やらで、アクセサリーを手作りしてるなんて。ロック・スターというと、何やらド派手な日常を思い浮かべるけど、そうでもないのか。
「ジェフ・ベックはバンドのメンバー10人ぐらいと、ライブ後にはジェスチャー・ゲームをやってましたね。紙にタイトル書いて、指名された人がジェスチャーやって、みんなでそれを当てるんです」
えええっ!? これまたギター・ヒーローのジェフ・ベックがジェスチャー・ゲーム? なんて素朴な! なんてかわいい! 意外すぎる!
「そうやってみんなコンサートの興奮をクールダウンさせるんですよ。それぞれみんなやり方があって、人間模様も垣間見れて面白いですねぇ」
高橋さんの後ろからコッソリ覗いてみたくなる。ロックスターも、みんな、あたりまえに日々の生活を営んでいるんだ。
ところで高橋さん、コロナ禍の中でこれから洋楽のコンサートはどうなっていくと思いますか? どうしていきたいですか?
「まずは2年前に予定していながら延期した公演を実現したいですね。それから先は1~2年でパッと消えちゃうんじゃなくて、10年20年、50年聴かれる音楽をお届けしていきたいです。ただコロナ禍が明けたら、コンサート会場はワッと予約が入って、なかなか予定を組むのが最初はたいへんになるでしょうね。まずは日本のアーティストが先に会場を押さえるでしょうから、洋楽が入り込んでいけるのは少し先になるかもしれません。
でも、ゆっくりとじっくり伝えていきたい。洋楽アーティストのコンサートは、圧倒的なパワーを誇ります。表現力の深さ、リズム感の良さ。どれもずば抜けている。僕が昔見たレーナード・スキナードやドゥービー・ブラザーズ、ああいう初めて体験した音の感動を、若いみなさんにも味わってほしいと願います」
和田靜香(わだ・しずか)◎音楽/スー女コラムニスト。作詞家の湯川れい子のアシスタントを経てフリーの音楽ライターに。趣味の大相撲観戦やアルバイト迷走人生などに関するエッセイも多い。主な著書に『ワガママな病人vsつかえない医者』(文春文庫)、『おでんの汁にウツを沈めて〜44歳恐る恐るコンビニ店員デビュー』(幻冬舎文庫)、『東京ロック・バー物語』『スー女のみかた』(シンコーミュージック・エンタテインメント)がある。9月に発売されたばかりの『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。』(左右社)は現在話題の新刊として多くのメディアに取り上げられている。