では、盗撮事件が起きやすい場所と手口はどうか。

「駅構内の階段やエスカレーター、電車内は盗撮多発スポットです。警察庁生活安全局の資料によれば、令和元年にはこれらの場所での盗撮被害は全体の3割を占めています」

 盗撮といえばペンや靴、カバンなどに仕込んだ超小型カメラでの撮影を想像しがちだが、実際には『スマホ』が使われるケースが圧倒的に多い。同クリニックで治療中の盗撮加害者でもスマホが69%、うち9割は、撮影時にシャッター音が鳴らない『無音アプリ』を使用して犯行に及んだことが明らかになった。

特殊カメラを使用していると思いきや、7割近くがスマホを使用
特殊カメラを使用していると思いきや、7割近くがスマホを使用
【写真】盗撮加害者は“普通の人”が大多数! 職業などのデータをまとめて見る

 駅構内のエスカレーターで、女性に気づかれないようにスマホでスカートの中を盗撮する──。これがデータからあぶり出された盗撮加害者の常とう手段といえるだろう。

日々のストレスを盗撮で解消

 女性からすると、「そもそもなぜ盗撮をするのか?」と首をひねるだろう。

盗撮軽視の興味本位からという動機がもっとも多いです。最初は、ごく軽い気持ちで自己使用(マスターベーション)のためにやったのに徐々に目的が変化していきます。盗撮前には、周囲にバレないかと緊張していたものの、実際にはスマホでいとも簡単に撮れてしまうとします。その際、加害者は達成感や優越感、スリルを味わいそれがやみつきになり、『盗撮のための盗撮』にハマっていくのです。やがて盗撮自体が目的となって、撮った画像を確認すらしなくなる人もいるんです」

 さらに厄介なのは、盗撮が単なる高揚感だけに終わらないことだ。次に紹介するのは、かつて斉藤さんが治療した加害者が語った言葉だ。

盗撮とは、相手に気づかれないように、日記を盗み見る行為なんです。その優越感は、日常生活では絶対に味わえないですから。そして画像や動画を保存することで、支配欲や所有欲が満たされるのです』

「彼らは劣等感、孤独感、傷ついた自尊感情や満たされない承認欲求など、日々のストレスを盗撮という性犯罪で解消しようとしているんです。

 残念ながら一部の男性の中には不適切なストレス対処法として、女性を支配したり、モノのように扱う、性的に貶めるという手段を使う傾向が強く見られる。その背景には、女性を下に見る男尊女卑的な価値観が横たわっています

 自分のストレス解消のために、女だからと八つ当たりする。これは8月に起きた小田急線刺傷事件でも見られた。

 加害者の「幸せそうな女性を見ると殺してやりたいと思っていた」という供述に表れていたミソジニー(女性嫌悪)ともつながるのだ。

「加害者には、“ミニスカートをはいているのは盗撮をしてほしいと言っているようなものだ”などの認知の歪みがうかがえます。“盗撮は根暗な変態がするもの”と言う人もいますが、そうではありません。むしろ女性をモノのように扱う一部の男性が持つ価値観は、社会に蔓延しているセクハラやパワハラと根っこは変わらない」

 盗撮加害者になりうる危うさは誰もが秘めているのだ。