成功の条件として最後にふれたいのは、時代の後押しである。これは個人の努力とは別の次元の話になるが、それでも人気商売である俳優としての成功には必要になってくる部分でもある。
いまふれたように俳優系ジャニーズの群像劇への出演が多いのも、実は時代の雰囲気を反映した一面があるだろう。
平成以降の日本社会は、バブル崩壊以降の経済の停滞や2度もの大震災などによって、私たちの日常の拠って立つ基盤が崩れ、自ずと生きかたそのものが新たに模索される時代になった。
そのなかで、ひとりのヒーローがすべてを解決するのではなく、仲間や家族、同僚などとともに、悩みながらも前向きに生きる等身大の主人公が求められるようになる。
ひとりの俳優であると同時に、多くの場合グループの一員でもある俳優系ジャニーズは、そうした役柄にそれこそ自然体で臨むことができ、見る側からも受け入れられやすい面があったのではないだろうか。もともと俳優専業ではなくアイドルであることが、有利に働いたのである。
『ロンバケ』『俺の家の話』の共通点
たとえば、『ロングバケーション』で木村拓哉が演じた瀬名秀俊にも、ピアニストとしての挫折、そしてそこから周囲に助けられながら再生していく物語があった。また宮藤官九郎脚本による長瀬智也の最後の主演ドラマ『俺の家の話』(TBSテレビ系、2021年放送)も、プロレスラーとして挫折した息子が父親の介護をきっかけに実家に戻り、父親の能楽師の仕事を継ぐなかで再生していく物語だった。いずれにしても、彼らが演じた人物は、同じように悩みながら生きる視聴者から深い共感を得るものだった。
もちろん、本人たちの演技や作品、さらには容姿の魅力も不可欠に違いない。しかし、役柄を通じて時代とシンクロし、そのよき体現者となることもまた、俳優系ジャニーズの成功の条件に加えられるべきだろう。
太田 省一(おおた しょういち) Shoichi Ota 社会学者、文筆家
東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得満期退学。テレビと戦後日本社会の関係が研究および著述のメインテーマ。それを踏まえ、現在はテレビ番組の歴史、お笑い、アイドル、歌番組、ドラマなどについて執筆活動を続けている。著書として『攻めてるテレ東、愛されるテレ東』(東京大学出版会)、『平成テレビジョン・スタディーズ』(青土社)、『テレビ社会ニッポン』(せりか書房)、『芸人最強社会ニッポン』(朝日新書)、『SMAPと平成ニッポン』(光文社新書)、『中居正広という生き方』『木村拓哉という生き方』(いずれも青弓社)、『紅白歌合戦と日本人』(筑摩書房)などがある。