バラバラになった“トー横四天王”

「トー横界隈」の呼び名をつくったのが20代前半のバーテンダーの男性で、「雨宮ただくに」を名乗り、「トー横の王」を自称していた。筆者は以前、取材したが、気軽に応じてくれた。

「この界隈(居場所のないキッズたちのコミュニティー)をつくったのは僕です。2年ほど前から集まっていました。安く飲めればいいかな、と思って呼びかけたのが始まり。若い子も多いですが、20代も30代もいます。昼は中学生もいます。友達に会いたいから、という理由で来ている人が多いみたい。メンツの入れ替わりは激しいです」

 などと語っていたが、SNS上で彼の評判はよしあしが分かれている。「雨宮さんに会いたい」と言ってトー横に来るきっかけになっている人もいる。一方で、未成年の買春に関する斡旋の噂まであるが、雨宮本人は否定する。

「ただくにさんはわからないけど、周囲の人は斡旋にかかわっているはず。有名な話です」(夏までトー横にいた女子高生)

多発する事件

 若者たちの一部では、市販薬の過量摂取(オーバードーズ)が流行っていく。市販薬と、ストロング系のチューハイやエナジードリンクと一緒に飲み、さらに、テンションを上げる若者もいた。

 トー横がSNSなどで盛り上がりを見せていた5月11日、18歳の専門学校生と14歳の中学生の2人が歌舞伎町のホテルから飛び降りて、死亡した。翌週も、同じホテルで19歳の男性が飛び降り自殺した。このことで、「トー横」は、メディアに注目されていく。

 学生2人の自殺の理由ははっきりしない。亡くなった男性のものと思われるTwitterには、飛び降りる数時間前に《(一緒に亡くなった中学生と)付き合ったカモ〜》との投稿がされていた。最後の投稿は、死亡する約1時間前の《お幸せになるが〜!》というものだった。

 3人の自殺があり、警察や行政は「トー横」や「広場」の取り締まりを強化した。

 「トー横四天王」の1人といわれていた、八重樫海渡容疑者が5月以降、中学生や高校生との性交を撮影したことで児童買春・児童ポルノ禁止法違反(児童ポルノ製造)などの疑いで逮捕、再逮捕された。

 6月には、15歳のRという少年がホームレスの男性を暴行し、傷害の疑いで書類送検された。「トー横の王」と呼ばれた彼もまた四天王の1人だった。

 逮捕事件が相次ぎ、夏休みに入ったころ、新宿署は制服の警察官だけでなく、私服警察官も投入。補導も強化した。新宿区は民間の警備員を配置した。また、大々的に、未成年の飲酒の取り締まりもした。さらに「広場」でも未成年飲酒で検挙した。その結果、夏ごろには「トー横界隈」の若者たちが減り「広場」に移った人もいた。

 その後、「雨宮」が「グリ下」(大阪のグリコ看板の下)での動画投稿で見かけられたり、トー横創成期メンバーで人気のあった女性が札幌のイベントに顔を出したという話もあるが、「トー横」や「広場」で見かけられることはなくなった。9月某日、「トー横」にいた10代後半と思われる女性は、友達と待ち合わせをしていた。

「私は『トー横』じゃない。ここは『トー横』だけど、『トー横』の子はここにはいないよ。最近は『広場』のほうに行っているみたい」

 今年の夏が終わるころには「トー横界隈」とされた集まりは事実上、融解し、「広場界隈」へと変化していく。

「日本各地に『界隈』ができ、中心メンバーは、大阪や横浜、大宮、名古屋などに遠征しています。(氏家さんが死亡した)傷害致死事件が起き、『広場』にいる若者も含めて『トー横キッズ』と報道されましたが、成り立ちからして違和感があります。逮捕された男は26歳だし」(佐々木さん)

 家庭や学校に居場所がなかった若者たちが今でも歌舞伎町に集まっている。初期の「トー横」を知らない人ばかりになりつつある。

「10代の若者がかつての“トー横”を目指して来てももう今のトー横は犯罪の温床になっていて、居場所のない若者の傷を癒す場所ではない」(歌舞伎町関係者)

 歌舞伎町という場所であることやコロナ禍であること、事件・自殺が起きたこともあり、入れ替わりも激しい。かつて「高校を卒業しても、ここに来ると思う」と言っていた女子高生の姿をもう見ていない。

〈取材・文/渋井哲也〉