野球漫画の第一人者、『ドカベン』『あぶさん』『野球狂の詩』などの作者である水島新司さんが10日、肺炎のためこの世を去った。82歳だった。キャリアは'20年の“引退宣言”までの63年間。新人漫画コンクールへの応募作などデビュー直後の極初期の作品を除き、ほぼすべてを野球に注いだ漫画家人生だった。

 水島さんのいちばんの代表作といえば、やはり『ドカベン』になるだろう。連載スタートは'72年。最終シリーズである『ドカベン ドリームトーナメント編』は'18年に完結。全シリーズの総巻数は205巻と超長編となった。

“気は優しくて力持ち”なスラッガー山田太郎、“悪球打ち”で口に葉っぱの岩鬼正美、“七色の変化球”を操る里中智、奇想天外な打法“秘打”が代名詞の殿馬一人……。『ドカベン』には列挙すれば切りがないほどの名キャラクターが登場した。そんな彼らは、水島さんの出身地である新潟県新潟市に“実在”する。古町通五番町商店街のアーケード『水島新司まんがストリート』に建てられた銅像たちだ。この商店街には、県内だけでなく県外から観光で訪れる旅行客も多く、通称“ドカベンロード”として親しまれている。

赤塚不二夫、高橋留美子作品も銅像の候補に

 ドカベンロードの銅像は7体。『ドカベン』からは上記の山田、岩鬼、里中、殿馬の4人。これに加え、“日本プロ野球史上初の女性選手” 水原勇気(『野球狂の詩』ほか)、超遅球“ハエ止まり”の岩田鉄五郎(『野球狂の詩』ほか)、酒豪の強打者“物干し竿”の景浦安武(『あぶさん』。ちなみに同作は日本で最も長く連載が続いたスポーツ漫画である)がいる。

 “水島キャラ”銅像の建立は'02年のこと。経緯について銅像のある古町通五番町商店街振興組合の池一樹会長は次のように話す。

サッカーのワールドカップがありまして、新潟も試合の開催地に選ばれました。ワールドカップの開催となれば、世界中から新潟に目が向けられる。そのときに何か“新潟のシンボル”のようなものができないかと考えました。新潟から世界に発信できるものはなんだろうという話になり、銅像の建立に至りました

 実はこちらの銅像であるが、水島さんだけでなく、他にも候補がいたという。候補という“悩み”が生じたのは無理もない。それは新潟が漫画の聖地ともいえる土地だからだ。

「銅像はアーケードの補修工事の際に建立されました。ちょうどそのころ私どもの古町通五番町商店街に漫画とアニメの専門学校ができました。また、新潟を出身地とする有名な漫画家さんがたくさんいらっしゃいます。高橋留美子先生の生家もこのあたりですし、出身ではありませんが、赤塚不二夫先生も長くこのあたりで暮らされていました。枚挙にいとまがないほどそうそうたる漫画家さんがいらっしゃるんですね。

 それでちょうど東京に仕事があったときに、出版社をいろいろ回ったり、それこそ赤塚不二夫先生の『フジオプロ』に行ったりしました。ただそうやって漫画家さんを回りながらも水島先生のことが頭のどこかにあった。古町通五番町商店がある場所は、小学校は『新潟市立白山小学校』、中学校は『新潟市立白新中学校』の学区になります。私もこの二校の出身なのですが、大先輩が水島先生なんです」(池さん、以下同)