加害者の多くはごく普通の男性
大江さんの被害は前述した(1)リアルで近しい人からの被害だったが、ネットの普及に伴い急増しているのが(3)のオンライン・グルーミングだ。
被害者から多数の相談を受ける川本瑞紀弁護士は、こう話す。
「投網をかけるように、加害者はSNS上で不特定多数の子どもたちに狙いを定めています。NHKがNPO法人『ぱっぷす』と協力し、ツイッターで架空の女子中学生のアカウントを作成した際は、“友達がほしい”とツイートしただけで、男性たちから性的な要求のメッセージが殺到していました。
そのようにしてアタリをつけて、反応があった子どもたちと実際にやりとりを重ねていくわけです。ひと晩で数百通ものメッセージを送り合うこともあります」
中にはわいせつ行為自体が目的ではなく、子どもに裸の写真を送らせて、児童ポルノを製造・販売する狙いでグルーミングが行われることも。反社会的勢力の資金源となっているケースもある。
「組織的犯罪を除けば、グルーミングを行う加害者の多くはごく普通の男性です。彼らは自分のやっている行為に罪の意識がない。素直でかわいい彼女がほしい、これは恋愛だ、と真剣に思っているんです」(川本弁護士、以下同)
前述したとおり、法制審では現在、グルーミングに処罰規定を設けるかどうかの議論が行われている最中だ。
「今の日本にはグルーミングそのものを取り締まる法律はありません。子どもを相手にわいせつな行為や性交をしたとき、被害者が13歳未満であれば刑法の『強制わいせつ罪』や『強制性交等罪』に問うことができます。しかし13歳以上の場合、これらの罪に問うためには暴行や脅迫が伴わなければならないのです」
いい人を装って子どもを懐柔するのがグルーミング。手なずけていく過程では通常、暴力をふるったり脅したりすることはない。
「そのため各都道府県が設置した『青少年保護育成条例』の扱いになり、数十万円程度の罰金ですまされてしまう。学校の先生や塾講師など、被害者との類型的な上下関係を利用した犯行は『児童福祉法』違反に問うこともできますが、前述した2や3のケースでは不可能。これでは被害の深刻さに見合った罰とはいえません。国の法律として整備し、きちんと取り締まるべきです」
グルーミングから子どもを守るにはどうすればいいのか。前出・齋藤さんが強調する。
「子どもたちが自分で、大人を拒否することや疑うことは難しいです。それでも大人が“知っている人であっても、2人きりになるときがあれば教えてほしい”と伝えておくことは大切です。
グルーミングに気づくのは周りの大人にとっても難しいことですが、子どもの様子がいつもと違うな、何かおかしいなと思ったら、子どもを責めずに心配しているという気持ちを伝えてあげてください」