滋賀県県議会でのやり取り

 杉並区と好対照となる例を紹介しよう。

 日本共産党滋賀県議会議員団の黄野瀬明子議員が市川忠稔健康医療福祉部長に対して、つくろい東京ファンドと生活保護問題対策全国会議で作成した扶養照会拒否のための「申出書」の活用について質問したところ、市川健康医療部長が以下のように答えた。

「自分の意思をうまく伝えられない方などが福祉事務所に対して自分の意思を伝える上でこうした様式(申出書)を活用することもひとつの有効な手段と考えられますため、今後、各福祉事務所へ情報を提供していきたいと思います」

 ちなみに滋賀県の県内15の福祉事務所で行われた扶養照会数は、2019年1月~2021年9月までの間でのべ9726件。そのうち、経済的支援が可能と回答があったのは68件、0.7%である。黄野瀬議員も、「なくすべき」と扶養照会の無意味さを述べている。

生活困窮者が急増、福祉行政はどうあるべきか

 長引くコロナ禍の影響で生活困窮する人は激増している。いつ果てるとも知れないコロナとの闘いに耐える人々の不安と悲鳴が日本中を満たし、民間が行う炊き出しやフードパントリーには長い列ができる。

 生活保護の申請件数は前年の同じ月に比べ、7か月連続で増えている。しかし、筆者たちが把握している人数に比べるとまだまだ少ない。今後、必要とする誰もが福祉制度につながるためには、そのハードルとなる要素は減らしていかなくてはならない、その筆頭が扶養照会だ。

 厚労省には是非知っていただきたい。どんなにその運用を改善してくれても、多くの現場の職員には届いていないし、届いたところで捻じ曲げてしまう。これだけ時代に合わず、経済状況や雇用形態、家族の形態が変わった現代では扶養実績にもつながらず、扶養照会通知を送る実務にはかなりの税金と労力を要し、そしてなにより、生活困窮者を制度から遠ざけ、親族をも苦しめている。

 こんなことを続ける意味を考えてほしい。そして、国民の命と生活を守ることを最優先に考え、百害あって一利なしの扶養照会を禁止にしてほしい。

 2月4日、杉並区荻窪福祉事務所に申し入れをお願いしたら、コロナを理由に拒否されてしまった。やむを得ず、杉並区本庁に要望書を提出することとなったが、杉並区はきちんと問題に向き合い、話し合いに応じてほしい。


小林美穂子(こばやしみほこ)1968年生まれ、『一般社団法人つくろい東京ファンド』のボランティア・スタッフ。路上での生活から支援を受けてアパート暮らしになった人たちの居場所兼就労の場として設立された「カフェ潮の路」のコーディネイター。幼少期をアフリカ、インドネシアで過ごし、長じてニュージーランド、マレーシアで働き、通訳職、上海での学生生活を経てから生活困窮者支援の活動を始めた。『コロナ禍の東京を駆ける』(岩波書店/共著)を出版。