コロッケの力を借りた復帰秘話
完全復帰はなかなか叶わず、低迷する日々が続いた。そんなとき、自分の誕生日パーティーに呼んだ、ものまねタレントのコロッケ(62)に、自分のまねをするように持ちかける。頼まれたコロッケはその日、美川さんを観察し続けたそうだ。
その後、コロッケが美川さんの特徴を極端に誇張した『さそり座の女』の歌まねが大ウケとなる。
'89年、フジテレビの『新春特番!オールスター爆笑ものまね紅白歌合戦』で、まねされた本人がサプライズで登場するという初めての企画が実現した。
「美川さんが登場することを僕は本当に知らなかったんですよ!1コーラス目を歌い終えたのに、2コーラス目もかかったから、音響さんが間違えたんだと思ったんですね。
2コーラス目の歌詞を知らないからどうしようと思っていたら、お客さんがワッて盛り上がってて、振り向いたらご本人がいて、慌てて逃げたっていう(笑)」
美川さんも当日を振り返る。
「司会者にコロッケさんにものまねされてどう思いますか?と聞かれて、迷惑なのよ、こんなペラペラの安い衣装なんか私着ないわよって言ったら、ばかウケしたの。
私は100万円くらいする衣装を着て出ていたから。審査員に淡谷先生がいらして、大笑いして喜んでくださっていたのが、うれしかった」
それが『タンスにゴン』の CMプロデューサーの目に留まる。美川さんは歌手・ちあきなおみの横を自転車で通り過ぎ、「もっと端っこ歩きなさいよ」と言い放つオネエキャラを演じた。
CMのユニークさと相まって、美川さんの演じた鮮烈なキャラクターが一大ブームを起こす。
「キャラクターがあんなにひとり歩きすると思わなかったわよ。そしたら私もただで起きないタイプだから、商売になるわと思って、コロッケに私と組まない?と誘ったの」
コロッケと訪れる各地で、駅に降り立てば大勢の人に囲まれ、会場はいつも2階席まで満員だった。美川さんは本格復帰のきっかけをくれたことを感謝していると話すが、コロッケもこう語る。
「それまでの芸能界では、歌手の方とお笑いの方が同じステージに立つことはなかったですから!美川さんがいなかったら、あそこまでものまね界は盛り上がってなかったですよ。そこがいちばんの感謝ですね」
2人のジョイントコンサートは、30年以上の時を経ても、絶大な人気を博している。
「オープニングでやるネタなんですけど、美空ひばりさんの『お祭りマンボ』を美川さんと、ひばりさんが憑依した僕で歌うんです。その後、全部アドリブで“ひばりさん、今日は会えてうれしいわ。淡谷先生とはどうなの?” “最近仲いいのよ” “あら、仲悪かったじゃない。仲よくなったの!?”なんて会話するんですけど、みなさん、涙流して笑ってくださるんですよ!」