バンドがブレイクする瞬間に立ち会える場所
「全然注意されなくて……。会場前にできた人だかりを、スタッフさんは優しく見守られていました。“本当に終わりなんだ“ということを実感させられて、私はそうした状況が感慨深くてうるっと来ましたね。閉店するんだな、と」(蟹さん)
しかし最終日の閉店した後に投稿されたTwitterには《お店を出られましたら立ち止まらずご移動をお願い致します》といつものフレーズが書かれていたのだ。
「その一言にエリアらしさを感じました」と笑う蟹さんだが、どこか寂しそうだった。
蟹さんがこれまで発表してきた作品の中にもエリアは数多く登場してきた。印象に残っているエピソードを尋ねると……。
「バンドがブレイクする瞬間に立ち会えたことです」
エリアの会場は三層構造。ときどきステージから離れた一番上の三段目の客席までもファンが大盛り上がりのバンドがいる。蟹さんによると、ワンマンライブではなく複数のバンドが出演する対バン形式の公演で、そこまで盛り上がっているバンドはその後どんどん有名になっていくという。
「他のバンドが目当てで来た観客も大暴れ。客席じゅうがヘドバンの嵐となったステージがありました。振り回される髪の毛で窒息しそうになったほどです。どこにいても髪の毛がきて“エリアが壊れる!“と思ったのを覚えています」(前出の蟹さん、以下同)
蟹さんは漠然と「このバンドは売れるだろうな」と思ったという。その時の勘は当たり、そのバンドは世界中にファンのいる中堅ビジュアル系バンドの一つになっているという。
そしてエリアは多くのバンギャたちの居場所でもあった。
「私自身もいちばん多く訪れたのがエリアでした。エリアでのライブはなぜか特別感があり、ライブが決まると嬉しくて。応援しているバンドもいつもよりもかっこよく見える気がしていました(笑)」
だが、そんな場所がなくなってしまった今、新たな『聖地』とバンドにとっての『登竜門』的なライブハウスの存在が求められている。
「高田馬場がビジュアル系の聖地とバンギャから言われていたのはエリアがあったから。ジャンルが栄えるには聖地的な場所が必要なので、喪失感があります」
蟹さんは今後もエリアについて作品にしていく、と意気込む。また、中にはエリアを題材にした楽曲を作ったバンドも。エリアはなくなってしまったが、作品の中でこれからも生き続けるのだ。
多くの人々に愛されてきたビジュアル系の聖地、高田馬場エリア。そこに刻まれた思い出は時代が変わろうとも永遠に不滅。まぶしく輝いていた日々は記憶の中で色褪せることはない。
蟹めんまさん イラストレーター。バンギャル(ビジュアル系バンドのファンの女性)やビジュアル系バンドを題材にした作品を多数執筆。著書に『バンギャルちゃんの日常』(KADOKAWA)などがある。