「米倉涼子の悪女っぷりがよかった」という声が多いように、今作は女優・米倉涼子の魅力が炸裂。銀行のお金を横領した後、夜の世界でのし上がっていく主人公・原口元子を演じたことで、強く、したたかで、蠱惑的な女優として確固たるポジションを築く。

 竹山さんは、「悪女を演じると、女優さんというのは演技がうまくなる」と指摘する。

「したたかさや強さといった内面性や多重性が、役柄に自然に乗っかってくる。映像化される清張先生の作品に、悪女ものが少なくないのは、女優との相性がよいという一面もある」

「一皮も二皮もむける」

 たしかに、このランキングでも、妻の育児放棄と逆らえない夫の苦悩を描いた短編小説『鬼畜』が7位に。保険金殺人の容疑をかけられる毒婦の波乱を綴った推理小説『疑惑』が8位という具合に、悪女ものの支持は厚い。

「私が脚本を担当した『鬼畜』('17年)では、育児放棄する梅子役を常盤貴子さんに演じてもらったのですが、驚くほど演技がうまかった。原作がよい、そして手前みそだけど脚本がよいと、清張作品は女優を輝かす力を持つ」

 また竹山さんは、『疑惑』の脚本を3度('03年/'09年/'19年)も担当。その都度、各女優が演じる“北陸一の毒婦”こと白河球磨子(通称:鬼クマ)に魅せられたとも。

「'09年版では球磨子を沢口靖子さんに演じてもらった。彼女は、私が脚本を担当した大河ドラマ『秀吉』で良妻賢母のねねを演じた。だからこそ、悪女である球磨子を演じたらどうなるんだろうと(笑)。『科捜研の女』(テレビ朝日系)のイメージが強いですが、沢口さんの球磨子を見たら、彼女の演技の豊かさに驚くと思いますよ」

'19年版では、球磨子を黒木華が、球磨子の弁護士を米倉涼子が演じ、話題を呼んだ。

「脚本完成後、米倉さんは球磨子を演じてみたくなったと聞いたことがある。黒木さんは、とても素晴らしい球磨子を演じてくれた。一方、米倉さんが球磨子を演じるとどうなるのか。そういう想像を膨らませることができるのが、『疑惑』の魅力でしょう」

 歴代の名だたる女優たちが演じてきた『疑惑』。だが、今なお脳裏に焼きついているのは、映画版の桃井かおり(球磨子)と岩下志麻(弁護士)という人も多いかもしれない。桃井が岩下の白いスーツに赤ワインをかけるシーンは、映画史に残るシークエンスだろう。

 悪女ではないものの、4位『ゼロの焦点』、5位『けものみち』、9位『天城越え』、同率10位『霧の旗』も、多重性のある女性が物語の核となる清張作品だ。『ゼロの焦点』は、GHQ占領下の特殊な状況に起因する悲劇を、『けものみち』は道なき道に迷い込んだ薄幸の女性の顛末を─、どん底から、あるいは過去から脱却しようとする女性を描いている。

 女優の演技がうまくなる、そう先述した竹山さんは、続けて「清張作品を演じると、清純派のイメージから抜け出すではないが、一皮も二皮もむける」と評す。

 例えば、'82年『けものみち』の名取裕子、'09年『ゼロの焦点』の広末涼子、さらには'17年『黒革の手帖』の武井咲というように、それまでのイメージからはあまり想像できないキャスティングが目立つのも清張ドラマの特徴。