大学受験は「お金の戦い」という現実

 NPO法人『キッズドア』は、東京都と宮城県で生活困窮世帯を対象に学習支援を行っている。また、姉妹団体の認定NPO法人『キッズドア基金』を通じ、「受験サポート奨学金」や「進学応援奨学金」(いずれも1人5万円)を設け、受験生を支援した。

 また、「英検奨学金」と「新生活準備奨学金」を合わせて、'21年度は1380人に支給した。対象は8割以上がひとり親家庭で、ほとんどが母子家庭だ。こうした奨学金の情報は児童養護施設などで暮らす子どもにも届き、奨学金を受給する人が増えてきた。

「ただ、高校進学に伴い奨学金が出るケースは少ない。それがあるかどうかで、高卒後の進路にも影響してきます。コロナ禍では家計が急変し、受験や進学費用として蓄えてきた貯金を生活のために取り崩した家庭もありました。経済的理由で受験校の数を減らしたり、塾・予備校に通うのをやめた人もいます。入学金や授業料を理由に進学をあきらめてほしくありません」(キッズドア基金、以下同)

 奨学金の使い道は受験料や交通費、参考書、入学金が主。キッズドアでは奨学金を支給された受験生の8割以上が大学進学を果たしている。お礼の手紙も届く。

「奨学金を受給した子どもたちの半数は、受験した大学の数が1~2校でした。しかし一般的には5~6校を受験する高校生が多く、受験校が多ければ多いほど合格率も高くなる。“お金の戦い”という現実があります」

 同基金では、クラウドファンディングや寄付で運営をまかなっている。日本生命やゴールドマン・サックスなど企業の協賛を得た奨学金もある。しかし、希望者すべてに奨学金が行き渡るわけではない。そのため文科省に「大学進学機会の公平性確保」について、経済的支援や環境整備についての緊急提言を行っている。

「コロナ禍で経済状況が厳しくなっています。勉強スペースの確保など、大学受験の環境整備も必要です」

 さらに大学進学後、困窮状態に陥った場合にも制度の壁が立ちはだかる。前述のとおり、大学生の生活保護受給は原則的に認められていない。そのため当事者や弁護士が中心となり、大学生などが困窮したときにも受けられるよう制度の運用変更を求めるオンライン署名も展開されている。

 NPO法人『虐待どっとネット』代表理事の中村舞斗さんは署名サイトchange.orgで、自身の経験を明かしている。大学進学後、親から受けた虐待の後遺症で体調が悪化、アルバイトができなくなり困窮した。生活保護を受けようとしたが、相談した役所の窓口で「大学はぜいたく品です」と言われて絶望し、断念したという。

 家計の状況で、進学や学びの機会が左右されないことが重要だ。

都道府県別・生活保護世帯の高校生の進学率

トップ5

1位 新潟県 49.2%
2位 神奈川県 48.1%
3位 石川県、大阪府  47.4%
5位 広島県 47.3%

ワースト5

43位 滋賀県 20.7%
44位 福井県 20.0%
45位 福島県 19.4%
46位 三重県 17.8%
47位 富山県 16.7%

※研究チーム「生活保護情報グループ」の情報公開請求により開示された、厚労省資料をもとに作成。進学先は大学、短大、専修学校など('21年3月時点)

取材・文/渋井哲也 ジャーナリスト。長野日報を経てフリー。若者の生きづらさ、自殺、いじめ、虐待問題などを中心に取材を重ねている。『学校が子どもを殺すとき』(論創社)ほか著書多数