伝説のライブへの期待値
時代と世代を超えて今もなお注目される明菜だが、どのような部分に普遍的な魅力があるのだろうか。アイドル事情に詳しいライターに聞いてみた。
「1982年デビューの中森明菜は、小泉今日子、早見優、堀ちえみ、石川秀美、シブがき隊など豪華な顔ぶれと同期にあたり、“花の82年組”としても知られます。明菜は当時から突出した存在ではありましたが、当時を知らない世代にも響くのは、その存在感にあるのではないでしょうか」
それは、明菜の2年前にデビューをして新しい“アイドル像”を確立し、アイドルブームを巻き起こした松田聖子の存在が大きく影響しているという。
「聖子のデビュー以降、デビューする女性アイドルがみんなと言っていいほど“聖子ちゃんカット”をしていたほどで、明菜もデビュー直後はその1人でした。しかし、デビュー曲は来生えつこ・たかお姉弟のしっとりしたミドルテンポの『スローモーション』、そして2枚目が一転して不良少女の寂しさを歌う『少女A』で、これが大ヒットし、一気にブレイクします。最初からいわゆる“アイドル”とは違う存在、アーティスト性を秘めた存在でした」
時代を超えて通用する楽曲の完成度、さらには明菜の高い歌唱力。そして何より事実上の活動休止状態が続き、生の明菜を見たことがない世代にとっては“幻の存在”になっていることが、さらに人気を集めている理由のひとつと言える。当時からのファン、そして当時を知らないファンの思いを、前出のジャーナリストが代弁する。
「まさに“明菜世代”には、あのころ大好きだった明菜ちゃんの姿を見たい、という気持ちがありますし、若い世代にとってはウワサがウワサを呼んで“神格化”されている状態なので、実際に歌っている全盛期の明菜を見てみたい、という気持ちがあるのではないでしょうか。だからこそ伝説のライブがお茶の間で見られることの期待値がどんどん高まり、楽しみにしていた人は多かったため、放送延期の衝撃が大きかったんだと思います」
またシティポップや昭和の歌謡曲が再注目されているいま、80年代の良質な音楽を楽しみにしている若者もいる。
延期となったNHK総合での放送は、7月9日16時30分からに決まったと発表された。15日にはBSプレミアムで2009年のライブも放送される。延期によりますます期待値が上がる伝説の歌手による伝説のライブ。過去映像だけでこれだけ盛り上がる歌姫は、かつていただろうか。今度こそ無事に放送されることを願う。
〈取材・文/渋谷恭太郎〉