次の世代へ

 KENZOは、自分自身の研鑽だけでなく、ダンスの技術やその精神を伝えることを大切にしている。DA PUMPとなってからも、全国でワークショップツアーを行い、ダンサーを育て続けてきた。

 今回の25周年ツアーにも登場したYUTA(32)は、KENZOが代表を務めるダンススクール「K Dance Academy」の社員で、嵐のバックダンサーや著名なアーティストの振り付けなど各方面で活躍している、期待を担う後輩だ。

「僕は大学を卒業した22歳のころに1年間本格的にレッスンを受けてたんですけど、それ以前は生徒全員を日本一に育てるようなレッスンですごく厳しかったようです。僕のころは少し丸くなったって先輩ダンサーも話していました。

 僕はギリギリのお金で通ってたので、教わったものは何がなんでも自分のものにしようと思っていましたし、翌週には絶対にできるようにして行ってたんですけど、さらに洗練された世界トップの技術の課題が次々と与えられていく。だからこそ、自分を高めることができたと思います」

 いちばん印象に残っているのはレッスン後に2人でうどんを食べたときのこと。夜中のなか卯のカウンターに男2人が並んで座り、イヤホンを片耳ずつつけて音楽を聴きながら、KENZOにダンスの講義を受けた。

「この音聞こえる?じゃあ、今、この音に合わせて手でリズムとってみて」

 全ての生活をかけてダンスにのめり込んでいたYUTAに、KENZOは周りの目も全く気にせず熱心に教えてくれたと感謝の思いを募らせる。

「今思えばカップルみたいですよね(笑)。そのときは2人とも本当に熱かったから、なんとも思っていませんでした。僕の大事な思い出です」

 KENZOはDA PUMPに加入してからも、ダンスがしたいという子どもたちのところに積極的にボランティアで足を運んできた。

「これまで、発展途上国や中国、東南アジアやフランス、ポルトガルの恵まれない人たちにワークショップをしたこともあります。世界のいたるところで、ごはんを食べるだけでもやっとという子どもたちが、ダンスに夢を託して踊っていた。日本でも下半身が動かないとか耳が聞こえない子どもたちにダンスを教えさせていただいたこともあります。

 ダンスって、言語が生まれる前からある感情表現のひとつなんです。洗練させていけば自分が伝えたいことが伝えやすくなるだけのこと。いちばん大事なのは技術じゃない。心が躍ることが大切だと思います。その表現のもとになる自分らしさを大事にしてほしい」

11日のライブ中盤に披露された『Dream on the street』。多くのダンサーが会場を沸かせた
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 ダンスを通してさまざまな環境に暮らす子どもたちに出会ってきた。夢半ばにして命を失った友人や後輩もいる。

「高校卒業の間際に、お互い目指す場所で日本一になろうと誓い合った友人を、その2週間後にバイクの事故で亡くしました。僕は彼が叶えられなかった夢の分も、自分の夢に向き合おうと決めました。今年の春にも、僕の後輩のダンサー、STYLEが不慮の事故で死んでしまった。29歳、これからっていうときでした。今はまだ、自分の中でも整理ができていないとこもありますが─」

 KENZOは「これ以上話すとダメだ」とひと呼吸置いて、座り直した。

「だから、ダンスができる環境があって、スポットライトが当たる瞬間には、高みを目指す皆さんには全力で頑張ってほしい。

 
僕にできることは、皆さんがダンスというフィールドで少しでもスポットライトが当たる可能性やチャンスが生まれる舞台や瞬間をつくり出すこと。

 人間生きていればいろんなことがあるし、うまくいかないことのほうが多い。僕だって、ここまでこられたのは仲間たちがいて、支えてくれるスタッフさんがいて、何よりも応援してくれる方々や家族がいてくれた。1人では絶対にここまでこられなかった。

 でも、ダメなときこそ、その経験が自分を成長させてくれるっていう確信もある。それを子どもたちに愛や夢を持つ重要性として伝えていきたいと思っています」

 アリーナツアー「DA POP COLORS」の後半、『Dream on the street』という曲では、KENZOがプロデュースを務め、メンバーそれぞれがDA PUMP加入以前から共に活動してきたストリートダンサーたちとステージに登場。アンコールで再び登場した彼らに、ISSAは最大の敬意をもってこう言った。

「オフィスビルのガラスを鏡に見立ててここまでやってきました。彼らに大きな拍手を」

 KENZOのダンスに対する情熱は、ビデオを何度も巻き戻し、商店街で練習していた少年のころのままだ。幕張メッセでも、ショッピングモールでも、スラム街のストリートでも、今日も明日も、ただ全力で踊り続ける。

 世界のダンサーからのリスペクトも集め、日本のダンスシーンを最前線で牽引する今、思うことはたったひとつ。

「たくさんの人がダンスを純粋に楽しめるように、応援できる環境づくりをしたい。みんなが笑顔でダンスができる世界をつくりたい。ただそれだけです」

 DA PUMP25周年アリーナツアー後、KENZOは休む間もなく全国ダンスワークショップツアーに出発した。北海道から沖縄まで、ダンスを愛する全国のダンサーに、その熱い思いを届けるために。

〈取材・文/太田美由紀〉

 おおた・みゆき ●大阪府生まれ。フリーライター、編集者。育児、教育、福祉、医療など「生きる」を軸に多数の雑誌、書籍に関わる。2017年保育士免許取得。Web版フォーブスジャパンにて教育コラムを連載中。著書に『新しい時代の共生のカタチ 地域の寄り合い所 また明日』(風鳴舎)など