腎移植の傷痕は「勲章」
どんなに移植の意思が強くても、レシピエント(受取人)とドナーがマッチングするかは別問題。がん細胞はないか、血液はマッチするか、提供者が術後日常生活に支障を来さないかーー。条件をクリアしなければ、生体腎移植は認められない。
「身体を鍛える以前の私はお酒も好きでしたし、中性脂肪も高かった(苦笑)。でも、彼女のおかげで健康な身体に戻ることができた。医師から『生体腎移植手術をするにあたって問題はありません』と言われたときは本当にうれしかったですね」
地獄の淵から救われた肉体が、自分を救ってくれた最愛の人の役に立つ。離婚騒動、整形、プロレスデビュー、心肺停止、そして生体腎移植――。ゴージャス松野の人生は、何が起こるかわからない。
「私の座右の銘は、『かけた情は水に流せ、受けた恩は石に刻め』です。あのとき失ったはずの守るものが、今はある。迷いはありません」
ただ、田代さんには迷いがあったと明かす。
「彼女は、私の身体にメスを入れて万が一のことがあったり、私が傷のある身体になったら、ボディビルやプロレスに影響が出てしまうのではないかと懸念していました。それに、いくらパートナーでも自分からは『腎臓移植をしたい』なんて言えないとも。日本でなかなか腎移植が広がらない理由を、私自身、この経験を通して学んでいます」
腎移植手術は、8月末から9月上旬に行われる予定だ。
「腹腔鏡手術といって、わき腹に内視鏡を入れる穴をつくって腎臓を切り離し、下腹部にメスを入れてそこから取り出します。昔のように背中を切って取り出すというわけではないので、私に大きな傷は残らない。その点も、彼女には安心材料になったようです」
地獄を見た人間は、前への向き方に説得力がある。それにしてもすごい人生ですね? そう尋ねると、「たまたまです」と松野さんは笑う。
「元気になったら再びプロレスのリングにも上りたいし、ボディビルの大会にも出たい。腎移植の傷痕は私にとって勲章ですから、堂々とパフォーマンスを披露しますので、楽しみにしていてください。そして、同じような状況で悩んでいる方に、今回の経験で得たことをお伝えしていければと思っています」
想像を絶する“ゴージャス〞な人生には、まだまだ続きがありそうだ。
【松野さんプロフィール】
ごーじゃす・まつの
1961年福島県生まれ。'86年、東宝芸能入社。マネージャーを務めていた沢田亜矢子と結婚するが、離婚騒動のバッシング報道で誹謗中傷され、失意のどん底を体験。再起を期して路上人生相談を第一歩に、講演、ホスト、プロレス、タレント活動などを行う。
取材・文/我妻弘崇