オーネスト政子 最も素直な人格者・北条政子(小池栄子)

 義時の姉・政子は女性キャラクターの中でも最もかわいいと思う。他のキャラが厄介だったり陰険だったり頑固だったりする中で、政子だけは超絶素直。お人よしでもある。

 流人の頼朝に恋をしちゃった「女」期、夫を叱咤激励する「妻」期、そして夫亡き後、出家したものの政争の渦中に籍を置かざるを得ない「尼将軍」期。女の苦悩だけでなく、人の上に立つ苦悩も唯一経験する女性キャラクターを、小池栄子が濃やかに演じている。

 素直でかわいいなぁと思わせた場面は2つ。

 まず、寺に身を隠し、頼朝の無事を祈って読経していたときのこと。頼朝の元妻・八重が「頼朝が夢枕に立つ」と話したときに、対抗心から「私のところにも来た」と嘘をつくシーン。なにも嘘つかなくてもと思うが、そこは女心ね。

 そして、夫の妾・亀の家を訪れ、「御台所としての教養を磨け」と説教されたシーン。亀の崇高な心構えにはぐうの音も出なかった政子は「さしあたって何を読めばいいでしょうか?」と素直に聞いちゃう。正妻のプライドはどこへ?! と思ったが、これが政子の長所でもある。過去の恨み辛みの負の感情よりも、未来の進展を常に考える人なのだ。

 妹と仲違いしたのも、妹が御台所になって残虐な政争に巻き込まれることを避けたかったのだろうと思わせた。深謀遠慮の人だ、政子は。アイデアも豊富、人道に基づく言動、まっすぐな人格者の政子には、アラートではなくファンファーレを鳴らしたい。

アジテーターりく 夫の尻を叩いて煽る策士・りく(宮沢りえ)

 私が最も興味をもっているのが、義時の継母・りくである。不甲斐ない夫・時政(坂東彌十郎)の尻を常に叩き、煽り、そそのかし、嫌がらせや悪だくみを実行させるのが大の得意。ここ最近の宮沢りえは悪女役に磨きをかけていたが、その集大成がここに!

 京から嫁いできたものの、かなり年上の夫がなかなか出世せず、やる気もないことに憤慨するりく。雅なモノ、自分が注目されることが大好き。貧乏くさいモノや田舎臭いモノ、地味なモノが大嫌い。寺に身を隠して掃除させられたときや、田舎暮らしで土いじりをさせられたときの辟易っぷりがまあおかしくて。文化と教養をもつ頼朝と通ずるものがあり、田舎の豪族・坂東武者たちをどこか小馬鹿にしている節もあった。政子が頼朝の身を案じて読経を続けていたときも、「戦は男がするもの。私たちは先のことを考えましょう」と、新しい館のしつらえを嬉々として考えたりする楽観主義者だった。

 ところが、北条家が御家人として上り詰めていくにつれ、りくの入れ知恵は次第にエスカレートしていく。初めの頃は、挙兵の日を決めさせるくじびきに細工をする程度だった。妾の家を打ち壊す「後妻(うわなり)うち」を提案したのも、切れ者・梶原景時を御家人の中から排斥する署名簿で、夫には名前を一番最後に書かせ、あとでこっそり切り取って知らん顔させたのも、頼家(金子大地)に呪いをかけるよう全成に促したのも、りくである。アイデア豊富、悪知恵の宝庫だ。

 ただし、すべては北条家のため。雅なことと自分のことしか考えない女ではなくなった。苛烈な覇権争いの中で、なりふり構わずに「家を守る」ための策を練りに練っているのだ。ひょっとしたら誰よりも北条家の繁栄を考えている人間、とも言える。

 今後も粛清は続くだろうし、北条家に憎しみをもつ人々が増えていく。女たちが些末なことでマウント合戦をしていたときのほうがよっぽど平和だった…と遠い目になるかもしれない。厄介で陰険で頑固だが、愛おしい女たちの行く末を最後まで見届けよう。

大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK)
[総合]夜8時[BSP・BS4K]午後6時
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/kamakura13/

吉田 潮(よしだ・うしお)
 1972年生まれ、千葉県船橋市出身。医療、健康、下ネタ、テレビ、社会全般など幅広く執筆。『週刊フジテレビ批評』(フジテレビ)のコメンテーターもたまに務める。また、雑誌や新聞など連載を担当し、著書に『幸せな離婚』(生活文化出版)、『くさらないイケメン図鑑』(河出書房新社)、『産まないことは「逃げ」ですか?』『親の介護をしないとダメですか?』(KKベストセラーズ)などがある。