南極へ送った俳句の中身
南極観測隊からのお手紙にとても感動した私は、FAXで返信した。こんなに役者冥利に尽きることなんてない。
遠い遠い南極との往復書簡は、何度か続いた。
彼らとは俳句を交換したこともあった。南極には四季がなく、「あるのは、長い冬と短い夏だけ」と書いてらっしゃった。季語を考えると、冬の「極夜(上らぬ太陽)」「オーロラ」「カタバ風(大陸から吹き下ろす冷たい風)」などがあり、夏は、「白夜(沈まぬ太陽)」「迎えの船」などがある─南極にいる方にしかわからない季語を教えていただき、大いに感嘆した。
そのころは娘と住んでいた私からも南極へ俳句を送った。
《二人して食らう秋刀魚の裏表》
どうやら私が彼らに返信をしたのは秋だったみたい。手紙を読み返すと、当時ヤンキースで活躍していた松井選手の話など(今も昔も野球の話は欠かせない!)たわいない近況を伝え合っていた。
彼らが日本に戻ってきた後、石濱さんと私、観測隊員の方々と神楽坂のファミレスでお会いしたことがあった。ペンギンや南極大陸を撮影した写真をいただき、「よくこんな所で生活をされているなぁ」と畏敬の念を抱いた。隊員の方々が、『赤い鈴蘭』を見ているテレビ画面の入った写真もあった。
現在、南極観測隊は63次まで続いているという。もし、まだ『赤い鈴蘭』が見られているなら、天国の石濱さんもきっと喜んでいらっしゃるに違いない。
ふじ・まなみ 静岡県生まれ。県立三島北高校卒。1956年NHKテレビドラマ『この瞳』で主演デビュー。1957年にはNHKの専属第1号に。俳優座付属養成所卒。俳人、作家としても知られ、句集をはじめ著書多数。