主演・二宮和也の印象
――健が絵美に、「もう大丈夫だよ」、「きっと大丈夫」と言う場面があります。この「大丈夫」はまさに自分がしっかりあり、互いに信頼し合っていないと相手に投げかけられない言葉だと思います。
金子:あの言葉は、ごまかしの「大丈夫、大丈夫」ではありませんよね。夢を持って、自分を見失っていなかったかつての健が戻ってくる。だから絵美は、この「大丈夫」を受け取ることができるんだと思います。
――『着飾る恋には理由があって』でも、川口さんと横浜さんの「頑張ろう」が同様の意味合いを持っていたように思います。
金子:これもまた、同じ方向を向いて、歩いていくためのふたりの合い言葉だと思います。
――その方向の先に愛があるんでしょうか?
金子:映画が終わったあとも健とタングの関係性は続きます。まだまだ家族になったばかりのふたりが、きっと今頃、ああでもないこうでもないと言い合っている姿が浮かびます。だから愛とは、どこかの時点で到達するものではなく、長い時間をかけて証明していくものではないでしょうか。
――主演の二宮和也さんの印象はどうでしたか?
金子:製作チームの共通意識として。企画段階から二宮さん以外想像していませんでした。
――では脚本は、かなり二宮さんに当て書きされたわけですか?
金子:二宮さんでなければ、冒頭で健にゲームをさせていないです(笑)。そんなポップな一面に加え、ロボットとの心の交流を何百キロ、何千キロという旅路として繊細に演じられる方です。ロボットと共生できるファンタジー感も持っていらっしゃる。
――ロードムービーとして各場所へ移動する中で、二宮さんの表情がいろんなグラデーションになっていく姿が印象的でした。
金子:演技プランとして本能的に捉えられているんだと思います。タングと宮古島に行った場面の健をみると、もうほんとうに家族の顔になっていますね。パパのようでもあり、親友でもある。二宮さんの多彩な表情の素晴らしさです。
そして個人的には、二宮さんには、とても人間らしい、清濁併せ持ったナチュラルさを感じます。普段は国民的スターとして文字通りきらきらしているのに、同時に等身大でリアルなご自分の姿を大事にされている。だからこそ、原作のベンが持っている澱(よど)みや濁(にご)りなど、複雑な感情を表現できるんだと思います。
――製作チームで二宮さんしか想像できなかったのは、二宮さんの清濁が決めてだったんですね。
金子:私個人の意見ですが(笑)でも出演オファーのタイミングは、ちょうど嵐の活動休止発表のあたりと重なってしまったようです。当然、断られる可能性もありましたが、製作チームではとにかく二宮さん版の健をずっと育て、改稿を重ねました。すると何かのご縁で、引き受けていただけることになり、思わず安堵しました(笑)。
――二宮さんとはかなり昔にもご一緒されていますよね?
金子:二宮さんが連続ドラマの単独初主演を果たした『Stand UP!!』(2003年、TBS系)です。実は私も連ドラの初チーフを初めて一話から最終話まで担当しました。
――先日公演があった舞台『ようこそ、ミナト先生!』では、相葉雅紀さん12年ぶりの主演舞台の脚本を担当されました。
金子:そうなんです。企画としてはもちろん別個に動いていましたが、活動休止後にそれぞれの個人活動に移られたタイミングとなぜか重なりました。
『Stand UP!!』では高校生役だった二宮さんが、今回はロボットと冒険するダメ夫役です。月日の流れを感じ、「立派になられて」と、まるで遠縁の親戚のような感覚です。勝手にですが(笑)。
――2019年12月23日に東京ドームで行なわれた嵐の「シューティングライブ」を記録した映画『ARASHI Anniversary Tour 5 × 20 FILM “Record of Memories”』の堤幸彦監督にインタビューをしたときに、堤監督がまったく同じようなことを仰っていました。
金子:まさに堤さんは、『Stand UP!!』のチーフ監督です。そうしたご縁もありながら、しみじみ感じるものがあります。